「帝都から月射病がなくなってよかったですね」
〈月問いの儀〉を終えてすぐ、月光は帝都の人々を脅かす事はなくなった。沙夜は正式に〈月華の姫〉と認められ、討禍隊と行動を共にし、忙しい日々を送っている。
人の魂を蝕魔にして使役するという禁術を使った事が咎められ、美朝は投獄された。さらに堂上家は取り潰し。また享も、除隊されたにも拘らず討禍隊に忍び込んだ事が明らかになり軍事裁判にかけられている。
珍しく二人揃った休日に、沙夜は影玄とのんびり庭園をそぞろ歩いていた。手袋を外した手を、影玄と繋いでいる。月華の姫となってから、沙夜の手から命を奪う力は失われた。不完全だった能力が安定したためではないかと言われているが、理由はどうでもよかった。この力でもう誰も傷つけないなら、それで。
影玄が眩しげに沙夜を見つめ、柔らかく微笑む。
「そうだな。夜に沙夜と逢引きするのが楽になった」
「蝕魔の討伐が楽になったとかではなく……!?」
「討伐はもとより容易い。それより月射病対策の口布を付けなくてよくなったから、沙夜に口づけしやすくて良くなった」
「な……っ!?」
討伐が完了して屋敷に帰る道すがら、毎夜口づけされるなあと思っていたが、そんな理由だったとは。沙夜の頬が赤くなった。
しばし歩いた後、影玄が足を止めた。どこか緊張した横顔で何かを取り出す。
「ところで、これを受け取れ」
「ああ、指輪ですね。同じ呪具ですか?」
左手の薬指にするりと指輪を嵌められ、沙夜は軽やかに応じた。あの呪具は沙夜の居場所を知らせた後に砕けてしまった。だが影玄は沙夜の手を握ったまま、ゆるりと頭を振る。
「違う、結婚指輪だ。……俺と生涯をともにしてくれるか」
突如渡された誓いの証に、沙夜は驚いて目を見開く。
でも考えるまでもなく、答えは決まっていた。
「はい、末永くよろしくお願いいたします」
春の花々が咲き誇る中、二人は口づけを交わした。
〈了〉
〈月問いの儀〉を終えてすぐ、月光は帝都の人々を脅かす事はなくなった。沙夜は正式に〈月華の姫〉と認められ、討禍隊と行動を共にし、忙しい日々を送っている。
人の魂を蝕魔にして使役するという禁術を使った事が咎められ、美朝は投獄された。さらに堂上家は取り潰し。また享も、除隊されたにも拘らず討禍隊に忍び込んだ事が明らかになり軍事裁判にかけられている。
珍しく二人揃った休日に、沙夜は影玄とのんびり庭園をそぞろ歩いていた。手袋を外した手を、影玄と繋いでいる。月華の姫となってから、沙夜の手から命を奪う力は失われた。不完全だった能力が安定したためではないかと言われているが、理由はどうでもよかった。この力でもう誰も傷つけないなら、それで。
影玄が眩しげに沙夜を見つめ、柔らかく微笑む。
「そうだな。夜に沙夜と逢引きするのが楽になった」
「蝕魔の討伐が楽になったとかではなく……!?」
「討伐はもとより容易い。それより月射病対策の口布を付けなくてよくなったから、沙夜に口づけしやすくて良くなった」
「な……っ!?」
討伐が完了して屋敷に帰る道すがら、毎夜口づけされるなあと思っていたが、そんな理由だったとは。沙夜の頬が赤くなった。
しばし歩いた後、影玄が足を止めた。どこか緊張した横顔で何かを取り出す。
「ところで、これを受け取れ」
「ああ、指輪ですね。同じ呪具ですか?」
左手の薬指にするりと指輪を嵌められ、沙夜は軽やかに応じた。あの呪具は沙夜の居場所を知らせた後に砕けてしまった。だが影玄は沙夜の手を握ったまま、ゆるりと頭を振る。
「違う、結婚指輪だ。……俺と生涯をともにしてくれるか」
突如渡された誓いの証に、沙夜は驚いて目を見開く。
でも考えるまでもなく、答えは決まっていた。
「はい、末永くよろしくお願いいたします」
春の花々が咲き誇る中、二人は口づけを交わした。
〈了〉



