影玄に捕らえられながら、美朝は呻いていた。
「どうして……どうして私じゃないのよ……!」
 双子の巫女は、ふたりでひとつ。
 沙夜を貶めれば、自分が特別になれると思っていた。
 そうすれば影玄は自分を選び、愛してくれるのだと思っていた。あなたが私をお姫様にしてくれるのだと信じていた。
 違った。
 ほんとうに特別な人間は、誰かに選ばれたり、しない。
 舞台の上で、この世で最も憎い妹が祈っている。天冠が月光に輝き、千早の袖が微風にたゆたう。
 ——ほんとうに特別な人間は、ただそこにあるだけで特別なのだ。
「最初から、私は平凡だったってこと……?」
 自分は特別なはずだった。幸福になれるはずだった。自らの手を汚さず、婚約者を利用し、母の魂まで使い、沙夜を徹底的に苦しめたのだ。それなのに惨めに地に伏しているのは自分の方だ。
「そこに立つのは、私のはずなのに——!」
 激痛の走る手を持ち上げ、沙夜に近づこうとする。しかしもはや体はピクリとも動かず、伸ばした手は地に落ちる。
 血の泡を吐きながら、美朝は意識を失った。