『——沙夜!』
 約束通り、影玄はすぐに来てくれた。そうして挨拶もそこそこに影玄に手を引かれ、沙夜は混乱を極めた舞台に飛び込む事となった。
「あの、これは一体……?」
「気にするな。沙夜は儀式を続けろ。後は女神に祈りを捧げるだけだ」
 気にするな、と言われても。美朝はなぜか苦しんでいるし、それに本当に月華の姫かはわからない。
 でもやれる事をやるだけだ。
 沙夜は廟の前で首を垂れ、静かに両手を組み合わせた。
 ——どうか、この地に月の加護を。
 周囲のざわめきが遠ざかっていく。沙夜の呼び声に応えるように、新月だったはずの夜空に、煌々とした満月が現れる。
 月の光に照らされて、銀色に変わってゆく沙夜の髪。星火に似て光る金色の瞳。
 わざわざ証明せずとも、彼女が月華の姫である事は明らかだった。
 誰かが呟く。
 月はなんて美しいのだろう、と。