おかしい! おかしい! おかしい!
 美朝は自室で頭をかきむしり、手にした封書を思いきり破り捨てた。
「お姉様が、特別ですって……!?」
 畳の上に紙片が無惨に舞い落ちる。そこには、鴛宮沙夜が〈月華の姫〉であることを確かめるため〈月問いの儀〉を執り行うと書かれていた。
 危機に陥った沙夜が昼を塗り替えて夜を呼んだ事件は、思いのほか注目を集めた。討禍隊と月祓宮は、沙夜こそがかつて失われた月華の姫ではないかと考え、その力があれば蝕魔にも対抗できるのではないかと期待しているらしい。
 ——期待されるのは私一人で十分なのに!
 蝕魔がどうしたというのだ。そんなものは討禍隊に任せればいい。いくら怪我をしようと月光に侵されようと、日輪の巫女たる自分が治癒できるのだから。
「でも確かに、ぼくの目の前で沙夜は夜を呼んだんだ。月光だってぼくめがけて差し込んできたし……沙夜が月華の姫だとしても、信じられるかもしれない」
 呑気に言うのは亨だ。この役立たずは、今は討禍隊を除隊になって、実家で肩身の狭い思いをしているという。今日も逃げるように堂上邸へやって来た。
 苛立ち紛れに亨を睨みつけそうになり、なんとか堪える。自分は愛されるべき日輪の巫女。それに、この男にはまだ使い道がある。
 ——双子の巫女は、ふたりでひとつ。
 沙夜が月華の姫であるというなら、同じく美朝だってその資格がある。ならば月問いの儀には沙夜ではなく美朝が主役として参加すべきだ。けれど、なぜか月祓宮の巫女はよそよそしくて、美朝に情報をくれなかった。
「ねえ、私が頼んだ物はちゃんと入手してきたんでしょうね」
「当然だよ、ぼくの美朝。除隊されたとはいえ、ぼくに同情してくれる人もいるからね。月問いの儀の詳細を調べられたさ」
 甘い声色になって、亨が封筒を渡してくる。それを受け取りながら、美朝は歪んだ笑みを顔いっぱいに広げた。
 ——切り札を使うべき時が来た。