「そのようなことが、たとえ輝元相手でも許されるわけがございません」
そりゃそうだ。
だってそこで秀吉は死なない。
その後もまだ生きてるってことは、今回の戦では死なないってことだ。
……。ん? 待てよ?
俺はいま信長だ。
三日後には殺される運命。
それを回避して生き残ってこそ、この身に生まれ変わった価値が出来るのでは?
「……。よい。茶会の準備は今まで通り進めろ」
「はい」
そうだよ。
そこが一番大事なことじゃないか。
考えろ、考えろ自分!
俺が織田信長としてかつてない栄光を手に入れられるか、三日後に死ぬかの分かれ目だぞ!
「蘭丸。光秀をここに呼び出そうと思えば、すぐに来れるのか?」
「早馬をだせば、明日中には」
「そうか……」
不便だな。
今日明日というわけにもいかないのか。
「すぐに呼び出せ」
「承知いたしました」
そう答えた蘭丸は、若く真っ直ぐな瞳で俺を見上げた。
「殿自ら、お手討ちになさるおつもりですか?」
「いや! それはまたちょっと考える。このことは誰にも言うな。どうするかは、これからだ」
「はい。それではすぐに光秀さまにお越し頂くよう、手はずを整えて参ります」
「内密にな。決して誰にも知られるでないぞ」
「かしこまりました」
蘭丸が出て行く。
危ない。
幸か不幸か「信長」という望んでも望みきれない立場を手に入れたんだ。
偶然だとか奇跡なんてことは、今はどうだっていい。
こんなチャンス、逃してなるものか。
一旦落ち着いて、状況を整理しよう。
もちろん俺は死にたくない。
俺が信長として生き延びつつも、天下を取れる態勢を作らなくてはいけないんだ。
三日後に迫った死期をただ回避するだけじゃない。
その後のことも考えた行動をとらないと、ここで生き延びても意味がない。
いずれ命取りになる。
世は戦国の時代だ。
いつ誰が裏切るか、分かったものではない。
広い板の間の部屋にポツリと残された俺は、頭をフル回転させる。
こんなに必死になって何かを考えるのは、生まれて初めてかもしれない。
この先起こることが確定している未来を検索しようとスマホを探したが、見当たらない。
さすがに携帯までは転生できなかったらしい。
俺は身一つ、いや、魂だけでこの体に入ったのか?
信長として目覚める直前の記憶といえば、会社の意味不明な習慣にうんざりしながら酒に入り浸る底辺生活と、車に吹き飛ばされた瞬間の映像だけ。
そもそも現代に戻ろうにも、戻る方法なんて分からない。
帰りたいとも思わない現実と、夢のような今があるってのに、自分の死期が迫っていることも知っている。
あぁ、現実の信長は、もうすぐ自分が死ぬことを知っていただろうか。
彼が幼少期からここまで歩んで来た道は、どんなものだったのだろう。
俺が知っているのはうっすい知識でしかないが、一人の人間であったことは間違いない。
生き延びねば。
西の空に日が傾き始める。
部屋から動こうとしない俺に、名前も分からない頭を丸めた坊主が何人もおどおどと顔をのぞかせては消える。
顔色をうかがいあれこれ話しかけては来るが、有無を言わさず全て下がらせた。
悪いがいまは、お前たちに興味はない。
蘭丸が帰ってくるのを待たなければ、彼以外今の俺が信用出来る相手は、誰一人としていなかった。
幸いなことに、不機嫌な顔をして「もうよい。下がれ」と言えば、誰もが恐れおののき言う通りに動く。
ずいぶんと躾けられたものだ。
「飯だ!」と叫べばすぐさま食事が用意され、ギロリとにらめばその場にいる全てが目を伏せた。
ここから逃げ出してしまおうかと、一瞬でも思わなかったわけじゃない。
しかし、時代のスーパースターとして顔が割れているうえに、どこへ行こうにも寺中の誰かが常に俺を見張っていた。
息苦しいのは、どんな支配者でも同じか。
天下人といえど、軟禁状態のようなものだ。
一歩外に出れば、誰に命を狙われるか分からない。
敵は多い。
信長の体は立派だった。
腕の筋肉もごついし腹筋も割れている。
これで刀を振りかざし戦ったら、さぞかし強かっただろう。
世は戦国。
野良で俺が生きるとして、どれだけもつか。
体力もない、武器も扱えない、この時代の現実を知らない。
あえて苦境に飛び込むくらいなら、このチャンスを生かして生き延びない奴がどこにいる。
俺を殺しに来る相手もやって来る日も分かってるんだ。
「蘭丸はまだか!」
「まだお戻りになっておりません!」
幼い子供ならばさすがの俺も手を出さないと思っているのか、小学生くらいの小姓が床にひれ伏す。
「下がれ!」
その一言に、彼は一目散に逃げ出した。
そうだ。
俺の敵は光秀だけじゃない。
将来的には、秀吉と家康のことも考えなくてはならないだろう。
秀吉がやられそう?
いいじゃないか。
共倒れしてくれるのが一番いい。
秀吉が負けたとしても、戦で弱った相手にすかさず攻め込めば、勝機も得やすいだろう。
俺にはこの先の未来を知っているという、強力なアドバンテージがある。
ここで勝てなきゃ、誰が勝つ。
そりゃそうだ。
だってそこで秀吉は死なない。
その後もまだ生きてるってことは、今回の戦では死なないってことだ。
……。ん? 待てよ?
俺はいま信長だ。
三日後には殺される運命。
それを回避して生き残ってこそ、この身に生まれ変わった価値が出来るのでは?
「……。よい。茶会の準備は今まで通り進めろ」
「はい」
そうだよ。
そこが一番大事なことじゃないか。
考えろ、考えろ自分!
俺が織田信長としてかつてない栄光を手に入れられるか、三日後に死ぬかの分かれ目だぞ!
「蘭丸。光秀をここに呼び出そうと思えば、すぐに来れるのか?」
「早馬をだせば、明日中には」
「そうか……」
不便だな。
今日明日というわけにもいかないのか。
「すぐに呼び出せ」
「承知いたしました」
そう答えた蘭丸は、若く真っ直ぐな瞳で俺を見上げた。
「殿自ら、お手討ちになさるおつもりですか?」
「いや! それはまたちょっと考える。このことは誰にも言うな。どうするかは、これからだ」
「はい。それではすぐに光秀さまにお越し頂くよう、手はずを整えて参ります」
「内密にな。決して誰にも知られるでないぞ」
「かしこまりました」
蘭丸が出て行く。
危ない。
幸か不幸か「信長」という望んでも望みきれない立場を手に入れたんだ。
偶然だとか奇跡なんてことは、今はどうだっていい。
こんなチャンス、逃してなるものか。
一旦落ち着いて、状況を整理しよう。
もちろん俺は死にたくない。
俺が信長として生き延びつつも、天下を取れる態勢を作らなくてはいけないんだ。
三日後に迫った死期をただ回避するだけじゃない。
その後のことも考えた行動をとらないと、ここで生き延びても意味がない。
いずれ命取りになる。
世は戦国の時代だ。
いつ誰が裏切るか、分かったものではない。
広い板の間の部屋にポツリと残された俺は、頭をフル回転させる。
こんなに必死になって何かを考えるのは、生まれて初めてかもしれない。
この先起こることが確定している未来を検索しようとスマホを探したが、見当たらない。
さすがに携帯までは転生できなかったらしい。
俺は身一つ、いや、魂だけでこの体に入ったのか?
信長として目覚める直前の記憶といえば、会社の意味不明な習慣にうんざりしながら酒に入り浸る底辺生活と、車に吹き飛ばされた瞬間の映像だけ。
そもそも現代に戻ろうにも、戻る方法なんて分からない。
帰りたいとも思わない現実と、夢のような今があるってのに、自分の死期が迫っていることも知っている。
あぁ、現実の信長は、もうすぐ自分が死ぬことを知っていただろうか。
彼が幼少期からここまで歩んで来た道は、どんなものだったのだろう。
俺が知っているのはうっすい知識でしかないが、一人の人間であったことは間違いない。
生き延びねば。
西の空に日が傾き始める。
部屋から動こうとしない俺に、名前も分からない頭を丸めた坊主が何人もおどおどと顔をのぞかせては消える。
顔色をうかがいあれこれ話しかけては来るが、有無を言わさず全て下がらせた。
悪いがいまは、お前たちに興味はない。
蘭丸が帰ってくるのを待たなければ、彼以外今の俺が信用出来る相手は、誰一人としていなかった。
幸いなことに、不機嫌な顔をして「もうよい。下がれ」と言えば、誰もが恐れおののき言う通りに動く。
ずいぶんと躾けられたものだ。
「飯だ!」と叫べばすぐさま食事が用意され、ギロリとにらめばその場にいる全てが目を伏せた。
ここから逃げ出してしまおうかと、一瞬でも思わなかったわけじゃない。
しかし、時代のスーパースターとして顔が割れているうえに、どこへ行こうにも寺中の誰かが常に俺を見張っていた。
息苦しいのは、どんな支配者でも同じか。
天下人といえど、軟禁状態のようなものだ。
一歩外に出れば、誰に命を狙われるか分からない。
敵は多い。
信長の体は立派だった。
腕の筋肉もごついし腹筋も割れている。
これで刀を振りかざし戦ったら、さぞかし強かっただろう。
世は戦国。
野良で俺が生きるとして、どれだけもつか。
体力もない、武器も扱えない、この時代の現実を知らない。
あえて苦境に飛び込むくらいなら、このチャンスを生かして生き延びない奴がどこにいる。
俺を殺しに来る相手もやって来る日も分かってるんだ。
「蘭丸はまだか!」
「まだお戻りになっておりません!」
幼い子供ならばさすがの俺も手を出さないと思っているのか、小学生くらいの小姓が床にひれ伏す。
「下がれ!」
その一言に、彼は一目散に逃げ出した。
そうだ。
俺の敵は光秀だけじゃない。
将来的には、秀吉と家康のことも考えなくてはならないだろう。
秀吉がやられそう?
いいじゃないか。
共倒れしてくれるのが一番いい。
秀吉が負けたとしても、戦で弱った相手にすかさず攻め込めば、勝機も得やすいだろう。
俺にはこの先の未来を知っているという、強力なアドバンテージがある。
ここで勝てなきゃ、誰が勝つ。



