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これ以上ないほど、私にこっぴどく振られた壮真は、それでも怒りもせずに私の手になにかを押しつけてくる。

飾り気のない白い封筒。

「安心して、俺からのラブレターじゃないから」
「じゃあ、なに?」
「葬儀のあと、陽菜のお母さんにもらったんだ。宛先がないけど、きっと俺宛てだと思うって。陽菜の好きなやつが俺だと誤解してたみたいで」

壮真は形のいい唇をゆがめて苦笑を漏らす。

「蒼はわかるだろ。これが誰に宛てられたものなのか」

震える指先で私は封筒を開ける。

陽菜が大好きだった、あの図鑑のページが一枚破られて折り畳まれていた。

そっと開いてみると、私の視界のなかでミモザが鮮やかに咲いた。

明るく優しい陽菜によく似合う、ミモザの花。

余白部分にちょっと丸めの彼女の文字で、『好きです』とそのひと言だけが記されていた。

「陽菜から蒼への渡せなかったラブレターだ」

その壮真の言葉に、私は崩れ落ちる。冷たい床に両手と膝をついた。

両の瞳に涙がにじんで世界がゆがむ。

「ひ……な、陽菜、陽菜っ‼」

届かないとわかっているけれど、何度も何度も彼女の名を呼ぶ。

あの子に届くことを祈るように、願うように。

好きだった。

女の子同士とか、そんなのどうでもいいから陽菜が大好きだった。

かわいげのない、嫌われ者な私を『世界一かわいいよ』と言い続けてくれた陽菜。

私は強い女の子なんかじゃない。意地悪も悪口も気にならなかったのは、陽菜がいてくれたおかげ。

だってあなたさえいてくれれば、本当にほかにはなにも必要なかったから。

大好きだよ、陽菜。

陽菜がどこにいても、ずっとずっと変わらない。

誰がなんと言おうと、この想いはたしかな恋だから。

かすかに開いていた窓から優しい風が吹き込み、私の手のなかのミモザが優しくほほ笑む。

陽菜がそこにいる、そんな気がした。

                                               FIN