君のギャップに惚れた!

「Akiraちゃん楽しんでる?」
 セイさんとの会話が止まったところで、反対側に空いた席に座ってくる男性。そこは私とセイさんが大切な話をしだしたと察してくれた咲さんが空けてくれた場所だった。
「タクヤさん」
「こないだも少し話したよね?」
「すみません、あの日クラスメイトが目の前に居て頭が真っ白になって何を話したとか全然覚えてなくて……」
「無理もないって」
 ラフなTシャツにジーパン、私と同じ格好にどこか親近感が湧いてしまう。セットした髪に、キリッとした目。タクヤさんは三十代を公言されているけど、セイさん同様身なりにかなり気を遣っているようで、一般的な三十代に比べると明らかに若々しく見える。
 タクヤさんは顔を出して活動されている方で、歴も十年越している。知名度も高くネット配信のドラマやアニメなどの主題歌を歌い、多方面に人気がある。歌い手として成功して、それを仕事としている。音楽に携わる者として憧れの存在であるが、当然ながらそうなれるのは一握りだと充分弁えている。

「Akiraちゃんは、作詞作曲メインだよね? 歌ったりとかはしないの?」
「あー。私、身バレが一番怖いんですよね。万が一にでも声で気付かれたらって」
「現役JKだもんね? 確かに色々と考えてしまうよね?」
「はい」
 本当は自分で歌いたいと、曲を作ったこともあった。だけどそれは身バレを前提として作り上げた、当たり障りのない内容。スタジオを借りて収録した時に気付いた、これじゃないって。これは私の歌ではない、私が作りたい曲はこれじゃないと。

「じゃあ、そろそろ歌い手さん達に歌ってもらおうかな?」
 セイさんの進行により、盛り上がるカラオケボックス内。この集まりの趣旨の一つは、歌い手さんに歌ってもらうこと。だからこそ、セイさんがカラオケボックスの一室を提供してくれた。

「じゃあ、俺から歌わせてもらうね?」
 スッと立ち上がったのはタクヤさんは持ち歌のドラマ主題歌となった歌を、流れる音楽に合わせて軽快に歌ってみせる。タクヤさんの動画は何度も視聴していて、その歌声の重圧さに圧巻していたけど生で聴くのは全然違う。歌い終わった後、歓声と拍手に包まれた。
「どう、Akiraちゃん?」
 右隣りの席が変わらず空いており、そこに腰を掛けたタクヤさんは私に爽やかな笑いと共に感想を聞いてくれた。
「すごく良かったです! やっぱり直接聴くのは全然違いますね!」
 本当にすごいな、歌い手って。声を作るのとか、どうしているのだろうか?
 次は咲さん。高音から急に低音への様変わりしていき、フレーズにより声色を変えている。
 すごい! 声、どっから出しているの?
 羨望の眼差しに気付いた咲さんは、一瞬私に笑いかけてくれる。
 ズキューーーン!!!
 ヤバい、ヤバい、ヤバい! 女の私でも、ときめいてしまうわ!
 気付けば私はスタンディングオベーションをしており、握手まで求めていた。
 やっぱり歌っていいな。聴く人を元気にしてくれる。そんな歌い手さん達が心を込めて歌える歌を作ることを目標の一つとして活動を続けてきた。
 私はその目標を、達成出来たのだろうか?
 その答えはノーで、この先叶うのかも分からない。
 熱中されたかと思えばすぐに飽きられる世界で、私はいつまで活動を続ける気なのだろうか?
 キラキラと輝く活動者さんを前に、私は自分の限界を感じていたのだと認めざるを得なかった。