どこまでも青々した空。ふわふわと流れる入道雲。夏休みも中盤に入った八月上旬。バイトと亜美と遊ぶことしかやることがない私は、今までどうやって時間を使っていたのか分からないぐらいに遅く流れていく時計と睨めっこを繰り返していた。
 そんな中、ベッドでゴロゴロしながら今日の約束時間を最終確認する為にSNSを開くと、操作してしまうのは自分が過去に投稿した内容。そこに表記されている日付は四年も前であり、今と違って閲覧数も反応も少ない。
 私がボカロPを始めたキッカケは、SNSで誰にも言えない気持ちを150の文字に詰め込んだことだった。それを組み合わせたのが今の歌詞になっている。
 中一、スマホを買ってもらい始めたSNS。当時は活動なんてしてなくて、反応は二つから三つ。コメント四つ。しかもこれは何人もの人が送ってくれたわけじゃなく、私の返信数も含まれての数だった。
 ムトツさん、元気かな?
 私に、音楽の世界を教えてくれた人。ボカロPになったら喜びのコメントをくれ、自分は一番のファンだと応援してくれた人。バズったらコメントはなくなったけど、いいねを必ず送ってきてくれる人。有名になるとかつてのファンは居なくなることもあると言われる世界で、ムトツさんは私がSNSを投稿すると必ず反応してくれる。頑張れと言ってくれているみたいで、私はここまでこれた。
 だから引退する時は、必ず個別DMで報告とお礼を言いたいと思っていた人。
 だけど、どうしてもその指は動かなくて。お別れを言いたくなくて。だから今日までズルズルと来てしまっていた。

「あ、時間!」
 スマホの左上部を見れば、時刻は十時と表示されている。オフ会は前回同様十三時だから、十二時には家を出たい。今から準備をして、昼ご飯を食べる。ヤバい、ゆっくりし過ぎた。
 立て掛けた顔より大きな鏡を見つめながら、まずはカラコンを入れる。胸元まである茶髪の髪を、丁寧にコテで巻いていく。最後にスプレーをかければ、ヘアの完成。
 今日も日差しが強いからと日焼け止めクリームとファンデをのせ、一番気合いを入れるのはアイメイク。ブラウンのアイシャドウを濃く塗り、アイライン、マスカラと丁寧に彩っていく。
 最後は服選び。今日の気分は白いTシャツに、ラフなジーパン。
 すると今日も完成。目元が強く、髪はふわふわで、ラフな服を着こなすギャル。この姿ならウザイ声かけにも、睨みを効かせたら去っていくだろう。
 このメイクは、私を守る兜。このファッションは、私の鎧。
 なーんて、現役JKが何言っているのやら。
 時刻は十二時過ぎ。ヤバっと声を漏らした私は、母親が仕事でいない為に玄関ドアに鍵をかけ、アパートの二階より駆け足で下って行く。