「ちょっと! 何、SNSコメント拒否設定にしちゃってくれてるの!」
空より照り付ける真夏の太陽より熱くなっている私は、また目を尖らせて人差し指をブンブンとさせる。
「いや、それは!」
「そんなことで、私から逃げられるとでも思ってるの?」
歯切れの悪い真面目くんに、顔をニュッと近付ける。
「す、すみません……」
ん? ちょっと待って。これじゃあ、私が真面目くんを好きで追っかけてるみたいじゃない!
「あ、あれは違うからね!」
「……違う? JKボカロPとして活動されている、Akiraさん。『ぶっ壊せ!』『舐めんなよ!』などの動画が十万回再生で、女子中高生を間にミーチュバーやショート動画でバズり、その後にも『飛べ!』や『拳の約束』などを配信し、今をときめく……」
「わざわざ言わんで良いわ! ……とにかく互いに秘密ね! 真面目くんだって、活動のこと知られたら困るでしょう!」
わざと腕を組み、威圧の態度を取る。私は亜美同様にギャルの風貌で、避けられることもある対象。真面目くんも、さっきみたいに怯むだろう。
しかし返答は、「活動、辞める気ですか?」だった。
ズキリと刺された胸の痛みをムシして「真面目くんには関係ないでしょう?」と突き放す。
「関係ありますよ! Akiraさんの歌、好きなんですから!」
「知らないし!」
回れ右をして、無理矢理話を終わらせる。こいつを連行する姿を何人にも見られているし、これ以上はヤバい。
「待ってください!」
次の瞬間、その呼び止めの声と共に手首が締め付けられる。
「ひっ!」
思わず漏れた声と共に掴まれていた手を振り払った私は、気付けば息を切らせていた。
「あ、すみません! その……」
「……別に、ちょっと驚いただけだから!」
掴まれた手の感触に、冷や汗が止まらない。
「剛力さん……?」
「活動を始める時に辞める基準をいくつか決めていて、その一つが身バレなの。リアルで関わりある人に知られたら辞めるって。だから仕方がないの!」
被せるように捲し立て、真面目くんの言葉を遮る。だって、そうしないと嫌なことを聞かれそうで怖かったから。
「そんな、辞めないでくださいよ! Akiraさんのファンがガッカリしますよ!」
「勿論、引退動画は作るから! 身バレなら、分かってくれるよ……」
「せめて、セイさんに相談されては?」
「……迷惑だし」
そう告げた私は、未練を遮るように真面目くんを置いてその場を立ち去ろうとする。
「……告げ口しようかな?」
「は?」
消えそうな声に尖らせた目で睨み付けると、オロオロと目を泳がすヘタレくん。告げ口? は、マジで?
「学校の掲示板に、JKボカロP Akiraは剛力さんだったと貼り付けておけば、みんな見るかな?」
「はあー!」
「す、すみません!」
私が腹から出した怒りの声に、頭を九十度にガバッと下げるくせにその口は止まらない。ふざけているの、コイツ?
「それだったらアンタが、歌い手の大和さんだと言いふらしてやるけど良いの? ああー!」
脅しているのに敬称を付けて呼んでしまうあたり、私はやっぱり大和さんのファンなんだなと悲しくなる。
「……か、構いません!」
「え? マジ? ……えーと」
この時、優勢だと思っていたのはとんでもない勘違いだとようやく気付いた。
「……お願いします。暴露は勘弁してください……」
完全なる形勢逆転。さっきまでの強気の態度はなくなり、ひたすらに頼みこんだ。
「じゃあ、僕のお願い聞いてくれますか?」
そう言ったかと思えば、ズンズンと身を寄せてくる。
「何?」
真面目くんが一歩近付いてきたら、私が一歩下がる。気付けば旧校舎の建物に背中が付き、後がない。それを良いことに距離を詰めてくる、ヤバい状況。
「ち、ちょっと待って!」
「待ちません」
真面目くんは背が高く百七十センチはありそうだけど、私は百五十五もない。明らかな体格差に、逃げれる状況でもない。覚悟して目をギュッと閉じた途端、この声が聞こえた。
「もう一度、オフ会に参加してください!」
「……は?」
目を開ければ、顔面に差し出されていたのはスマホ。そこに映し出されていたのは、第二回目オフ会の知らせだった。
「昨日すごく盛り上がりまして、二回目を一カ月後にしようとなりました! 剛力さんも案内来ましたよね? 一緒に参加しましょう!」
「ま、まあ……」
確かにセイさんがDMを送ってくれていたけど、返事は保留にしてもらっている。何故なら。
「オフ会に行きましょう!」
「断るつもりなの。……だって、私はもう活動を辞めるつもりなのだから」
「それなら剛力さんがAkiraさんだと公表します」
「はあー!」
その声があまりにもデカかったらしく、何事かと覗きこむ生徒二人。同じクラスの女子だ。
「ちょうど良かった。すみません、ちょっとお話が……」
「わあああああ! 何でもないのぉー!」
真面目くんの腕を掴み、女子二人にニィッと笑顔を浮かべる。それを見ていた二人は「何、この組み合わせ?」と言いたげな表情を浮かべるが、そこは女子。触れてはいけないと察してくれたようで、手を振り返しまたねと去ってゆく。
「……アンタ、いい根性してんじゃない?」
自分が弱い立場に居ることを忘れた私は真面目くんを旧校舎の建物に追い込み、イケメン俳優ばりの壁ドンを決め込む。
「ぼ、僕は本気です。分かってくれましたか?」
目をキリッとさせ、こちらを真っ直ぐに見つめてくる真面目くん。そこにいつものナヨナヨ感はなく、本気だと伝わってくる。
「……もう、分かったよ。一回だけだからね? 活動を辞めるのは撤回しない。それが条件! 分かった?」
「はい! ありがとうございます!」
そう言った真面目くんは、私の手をギューと握ってくる。
「ちょっと近いから!」
「あ、すみません! 嬉しくなると見境なくて!」
手をパッと話したかと思えば、アタフタと言い訳を繰り広げる。やっぱりそこは歌い手ということなのだろうか? 噛まずにペラペラと話す姿に、圧倒してしまった。
空より照り付ける真夏の太陽より熱くなっている私は、また目を尖らせて人差し指をブンブンとさせる。
「いや、それは!」
「そんなことで、私から逃げられるとでも思ってるの?」
歯切れの悪い真面目くんに、顔をニュッと近付ける。
「す、すみません……」
ん? ちょっと待って。これじゃあ、私が真面目くんを好きで追っかけてるみたいじゃない!
「あ、あれは違うからね!」
「……違う? JKボカロPとして活動されている、Akiraさん。『ぶっ壊せ!』『舐めんなよ!』などの動画が十万回再生で、女子中高生を間にミーチュバーやショート動画でバズり、その後にも『飛べ!』や『拳の約束』などを配信し、今をときめく……」
「わざわざ言わんで良いわ! ……とにかく互いに秘密ね! 真面目くんだって、活動のこと知られたら困るでしょう!」
わざと腕を組み、威圧の態度を取る。私は亜美同様にギャルの風貌で、避けられることもある対象。真面目くんも、さっきみたいに怯むだろう。
しかし返答は、「活動、辞める気ですか?」だった。
ズキリと刺された胸の痛みをムシして「真面目くんには関係ないでしょう?」と突き放す。
「関係ありますよ! Akiraさんの歌、好きなんですから!」
「知らないし!」
回れ右をして、無理矢理話を終わらせる。こいつを連行する姿を何人にも見られているし、これ以上はヤバい。
「待ってください!」
次の瞬間、その呼び止めの声と共に手首が締め付けられる。
「ひっ!」
思わず漏れた声と共に掴まれていた手を振り払った私は、気付けば息を切らせていた。
「あ、すみません! その……」
「……別に、ちょっと驚いただけだから!」
掴まれた手の感触に、冷や汗が止まらない。
「剛力さん……?」
「活動を始める時に辞める基準をいくつか決めていて、その一つが身バレなの。リアルで関わりある人に知られたら辞めるって。だから仕方がないの!」
被せるように捲し立て、真面目くんの言葉を遮る。だって、そうしないと嫌なことを聞かれそうで怖かったから。
「そんな、辞めないでくださいよ! Akiraさんのファンがガッカリしますよ!」
「勿論、引退動画は作るから! 身バレなら、分かってくれるよ……」
「せめて、セイさんに相談されては?」
「……迷惑だし」
そう告げた私は、未練を遮るように真面目くんを置いてその場を立ち去ろうとする。
「……告げ口しようかな?」
「は?」
消えそうな声に尖らせた目で睨み付けると、オロオロと目を泳がすヘタレくん。告げ口? は、マジで?
「学校の掲示板に、JKボカロP Akiraは剛力さんだったと貼り付けておけば、みんな見るかな?」
「はあー!」
「す、すみません!」
私が腹から出した怒りの声に、頭を九十度にガバッと下げるくせにその口は止まらない。ふざけているの、コイツ?
「それだったらアンタが、歌い手の大和さんだと言いふらしてやるけど良いの? ああー!」
脅しているのに敬称を付けて呼んでしまうあたり、私はやっぱり大和さんのファンなんだなと悲しくなる。
「……か、構いません!」
「え? マジ? ……えーと」
この時、優勢だと思っていたのはとんでもない勘違いだとようやく気付いた。
「……お願いします。暴露は勘弁してください……」
完全なる形勢逆転。さっきまでの強気の態度はなくなり、ひたすらに頼みこんだ。
「じゃあ、僕のお願い聞いてくれますか?」
そう言ったかと思えば、ズンズンと身を寄せてくる。
「何?」
真面目くんが一歩近付いてきたら、私が一歩下がる。気付けば旧校舎の建物に背中が付き、後がない。それを良いことに距離を詰めてくる、ヤバい状況。
「ち、ちょっと待って!」
「待ちません」
真面目くんは背が高く百七十センチはありそうだけど、私は百五十五もない。明らかな体格差に、逃げれる状況でもない。覚悟して目をギュッと閉じた途端、この声が聞こえた。
「もう一度、オフ会に参加してください!」
「……は?」
目を開ければ、顔面に差し出されていたのはスマホ。そこに映し出されていたのは、第二回目オフ会の知らせだった。
「昨日すごく盛り上がりまして、二回目を一カ月後にしようとなりました! 剛力さんも案内来ましたよね? 一緒に参加しましょう!」
「ま、まあ……」
確かにセイさんがDMを送ってくれていたけど、返事は保留にしてもらっている。何故なら。
「オフ会に行きましょう!」
「断るつもりなの。……だって、私はもう活動を辞めるつもりなのだから」
「それなら剛力さんがAkiraさんだと公表します」
「はあー!」
その声があまりにもデカかったらしく、何事かと覗きこむ生徒二人。同じクラスの女子だ。
「ちょうど良かった。すみません、ちょっとお話が……」
「わあああああ! 何でもないのぉー!」
真面目くんの腕を掴み、女子二人にニィッと笑顔を浮かべる。それを見ていた二人は「何、この組み合わせ?」と言いたげな表情を浮かべるが、そこは女子。触れてはいけないと察してくれたようで、手を振り返しまたねと去ってゆく。
「……アンタ、いい根性してんじゃない?」
自分が弱い立場に居ることを忘れた私は真面目くんを旧校舎の建物に追い込み、イケメン俳優ばりの壁ドンを決め込む。
「ぼ、僕は本気です。分かってくれましたか?」
目をキリッとさせ、こちらを真っ直ぐに見つめてくる真面目くん。そこにいつものナヨナヨ感はなく、本気だと伝わってくる。
「……もう、分かったよ。一回だけだからね? 活動を辞めるのは撤回しない。それが条件! 分かった?」
「はい! ありがとうございます!」
そう言った真面目くんは、私の手をギューと握ってくる。
「ちょっと近いから!」
「あ、すみません! 嬉しくなると見境なくて!」
手をパッと話したかと思えば、アタフタと言い訳を繰り広げる。やっぱりそこは歌い手ということなのだろうか? 噛まずにペラペラと話す姿に、圧倒してしまった。



