君のギャップに惚れた!

 そんなイライラを抱えた、次の日である月曜日。朝っぱらから強い日を差す太陽により視界はボヤけ、蝉はミーンミンミンとうるさい! そんな中電車に乗り三駅で着くのは四階建ての高校で、ベタつく汗に気持ち悪さを感じながら三階の二年一組の教室に辿り着く。
「おはよう。茜」
 ドアを開けるなり飛び交う声。教室後方の席に輪になっている女子四人は、カッターシャツや膝上スカートをバサバサとさせており男子の目などお構いなしだ。
 正直、うらやましい。私もこれぐらい堂々と出来たら良いのに。

「あ……、おはよう」
「暑さヤバいよねー? ほら、あげる」
「ありがとー。助かる」
 一人がくれたのは汗拭きシート。私は男子に背向け、ササっと汗を拭き取る。体はスッキリし、そして何より。みんなの反応から身バレはおそらくしていないと、嫌な汗も綺麗に拭き取ってくれた。

「おはよーう!」
「あ、おはよう」
「え、どうしたの?」
「なんでも……」
 ははっと笑う私を、じっと見つめてくる女子。
 井上(いのうえ)亜美(あみ)。制服のシャツを第二ボタンまで開けて、緩く付けた赤いリボン。茶髪のゆるふわに合わせた茶色のアイシャドウは、今日もバッチリ決まっている。唇にはラメリップ、耳には私と同色の金色ピアス。
 私達は身なりも似ていることから入学当時より気が合い、髪のヘアや、ギャルメイク、バズったショート動画などについてよく話す。
 だけど私がボカロPをやっていることは当然秘密であり、幸い亜美は歌や推しなどに興味なくメイクや服がオシャレなインフルエンサーをリスペクトしているから全く気付かれる予兆がない。だからこそ今まで活動を続けることが出来ていた。

「ねえ、どうしたの?」
 にゅっと顔を寄せてくる亜美。いわゆる私達みたいなギャルは、怖いだの頭悪そうだの言われるけどそんなことはない。少なくても亜美は聡明で、友達想いで、家族想いだ。
「いやー。……確か亜美は、真面目くんと同中だったよね? どんな奴かなーって?」
 探りを入れるはずが、ガッツリ本題に入ってしまった。
「真面目くん? うーん、あの頃から真面目と呼ばれてて、学年一位だったからなー」
「へぇ」
 私が通っているのは都立高校普通科。学力的に言えば中の上くらいで私は必死に受験勉強してやっと入れたぐらいだけど、真面目くんからしたら息をするかのように問題を答えていたんだろな。
「双子だったとか聞いたことない?」
「え? いや、同級生に真部くんは一人しか居なかったと思うけどー」
「そっかー」
 気付けばフゥーと溜息が出ていた。さすがに双子とか、よくあるオチじゃないか。
「あ、もしかして。真面目くんがタイプ?」
「ふぇ!」
 普段なら気にも留めないけど、真面目くんが憧れの大和さんだったことを思い出し変な声が出てしまう。
「そうなら、普通に応援するけど?」
「ちがーう! ぜーんぜん、興味ないから!」
 両手を横に振り、はわわわっとなってしまった。

「なーんだ。……そういえば、茜って恋バナ興味ないよね? そこらへんどうなの?」
 その言葉に、胸がギュッと締め付けられる。亜美に言えていないことは、もう一つ。それは……。

「……あ、真面目くん来たよ」
 亜美が指した先には、教室後ろからノソノソと入ってくるその姿。カッターシャツの第一ボタンまでしっかり留め、シャキッとしたズボンを履きシルエットは悪くない。だけど背が高いにも関わらず背筋を曲げて、ヒョロく見える歩き方。変わらずのクリクリ猫っ毛と丸渕メガネの彼は周りをキョロキョロと見渡し、そっとイスを腰を掛ける。
 仕方がない、こうなったら実力行使だ。
「ちょっと行ってくる!」
「お、行ってらっしゃい!」
「そうゆうのじゃないから!」
「はいはい」
 ニヤニヤとした笑顔を浮かべる亜美は、何かを勘違いしている。いやいや、マジでそうゆうのじゃないから!
 そう思いながら踏み出す足はドシドシとしていて、真面目くんは早速教科書を開いて勉強しようとしているけど関係ないし!
「おい、ちょっと顔貸せや!」
 気付けば腰に両手を置き、仁王立ちしていた。
「ひー! どうか、お助けを!」
「は?」
 教科書を頭の上に乗せ、カタカタと体を震わす真面目くん。何で男が女を怖がってんの?

「茜、笑顔! え・が・お!」
 亜美の声援に、尖っていた目元を丸め口角をスッと上げる。
「ちょっとお話し、良いかな?」
「は、はいー!」
 教科書をぶん取って机にバンッと置き、カッターシャツを掴んで無理矢理連れ出す。廊下では人目がある。だからこそ誰も寄りつかない旧校舎前にと、真面目くんを連行することにした。