君のギャップに惚れた!

 そう思いながら電車に乗るために駅に向かっているが、その足取りは行きと違ってノソノソとしている。
 ……はぁ。本当なら大和さんの歌声が好きですと話しかけて、声を出し方や、歌う時の抑揚の付け方、心掛けていることとか聞かせてもらおうと思っていたのに、何でこうなったの?
 生歌、聴きたかったのに。どんな人か楽しみにしていたのに。大和さんにただ会いたかったのに。それが真面目くんなの? ウソでしょう?
「ありえないしー!」
 気付けば私は浜辺より見えるキラキラとした東京湾に向かい、声を張り上げていた。
 私、剛力(ごうりき) (あかね)。リアルJK。自分で言うのもなんだけどクラスでは一目置かれる存在っていうか、スクールカースト上位。胸元まで伸びる茶髪をコテで巻いて、耳に光る金色のピアス。入念なアイメイクで目力命にして、唇に輝くラメリップ。それに合う白のノースリーブとラフなジーパンを合わせている。
 そんな私の隠れた趣味は、作詞作曲して映像つけて配信すること。今流行りの、ボカロPってやつだ。現在は動画サイトで登録者数一万人だが、当初から上手くいっていたはずもない。一作目の視聴数は二桁いけば良い方で全然だったけど、腐らず二作三作と曲を作り公開するうちに知名度を一気に上げることが出来た。それは人気歌い手である大和さんが、私の曲に合わせて歌った映像を公開してくれたことだった。登録者数五万人の大和さんの映像を見たファンの人達が、Akiraとは誰かと調べてくれ映像を見てくれたことにより私の映像はバズってくれ今の地位に居る。そうゆうわけで大和さんは恩人であり、憧れであり、そして何より音楽好きとしてファンだった。
 そんな大和さんとの関わりは私の曲を歌ってくれたお礼をSNSを通じて行ったやり取りと、互いにフォローし合ったこと。だけど大和さんは日常的にSNSをやる人ではなく、動画投稿した時に紹介をする活動のみの使用だった。たくさん付けられているコメントに書き込む勇気はなく、私はその投稿に「いいね」を送ることしか出来ない。
 そんなモヤモヤを抱えている時セイさんからDMをもらって交流を持つようになり、セイさんが作ったボカロPや歌い手のグループに参加させてもらった。そこで情報交換や悩みなどを分かち合っていると、まさかの大和さんが加入してきた! そこで大和さんの歌にかける熱い想いを知りますますファンになった私は、今日のオフ会に大和さんが参加すると知り思い切って参加したいとコメントをした。
 そんな感じで迎えた今日。まさか、まさか、まさか、まさか同じクラスの真面目くんだったなんてー!! 嘘でしょう? だって大和さんは腹の底からの声を出し、あのドスの効いた声を自由に操り、そんな中にも優しさが詰まっていてだからこそ歌がキツくなりすぎない。絶妙なバランスを揃えたあの歌声を、あのヘロヘロに出来る訳ないに決まってる!
 そう思いながらカンカンに照り付ける炎天下の元、流れる入道雲を眺めていると私の頭は少し冷静になっていく。……思わず逃げ出してしまったけど、口止めしないとヤバいよね?
 私は肩にかけてある白のスマホポーチからスマホを取り出し、大和さんのSNSアカウントにDMを送る。……が。
「あれ?」
 何度操作しても、そのメッセージは送れない。今まで何度もやってきた工程、そんなはずは。
 そこで、この現象にようやく気付く。
「私からのコメント拒否設定にしやがったな、アイツー!」
 東京湾に、また私の絶叫がこだました。