君のギャップに惚れた!

「それ、井上さんには話すことは出来ないのですか? 全てを話して理解してもらえたら、辛いコメントの辛さを分かち合ってくれたり、身バレの恐怖も軽減すると思いますけど」
「勝手に人の心読んでくるの、辞めてもらって良い?」
 コイツはエスパーか? ってぐらいに、言い当てくる。まあそれは、彼が活動者だからだろう。
「亜美にか……。分かってくれるかな?」
「大丈夫ですよ」
 そう声をかけてくれたコイツは、ただ遠くを目を細めて眺めていた。
「アンタは友達作らないの?」
「教科書が友達です」
「じゃあ、私が友達一号! 異論は受け付けないから!」
「はい!」
「友達に、『はい』なんと言う? ……真部くん?」
「え? 俺の名前、覚えててくれていて」
「さすがに同じクラスだし、名前ぐらい覚えてるって」
 どんだけクラスメイトに求めるハードル低い奴なの? ……ずっと、そうだったんだろうな。
 そのにこやかな表情に、チクリと胸に刺さるような気がした。

 話している間に日は暮れ、海は太陽と同色に染まってゆく。
「綺麗ですね。俺、茜色が一番好きなんですよ」
「ぐふっ!」
「大丈夫ですか?」
「いや……」
 コイツ。私が茜という名前を知らないな!
「あ、あー! 違います! 変な意味はないです!」
「分かってるわ!」
 明らかに赤面しているであろう顔をごまかす為に、また私は可愛げもなくプイッと顔を背けてしまう。

「……俺達って友達だけの関係ですか?」
「へ?」
 そっとコイツに顔を向ければ、頬を赤らめたコイツ。日焼けしやすい体質じゃなければ、緊張してるってこと?
「その、俺は……」
「何?」
 まさか、友達を超えて付き合おうとか言ってこないよね? そんなこと言われたら、私……。
 目の前に広がる海。茜色に染まった太陽。波は静かに押しては引いてを繰り返し、そんな景色を前に誰も居ない。
 歌詞の一場面を作る時みたいなシチュエーションに、私の胸がどんどんと熱くなっていく。
 私の両手をそっと取ったコイツは、私の顔を見つめて一言。
「音楽を愛する者同士、タッグを組みましょう!」
 輝く瞳に、満面の笑みを見せてきた。
 ……うん。そんなことだと思ってた……。いやいや、大和さんと組むなんて最高にテンション上がることなんだけどね。
 そう思うと私にとって目の前に居る人は、憧れの歌い手の大和さんでも応援してくれていたSNSのムトツさんでもなく、同じクラスの真部くんなんだよなー。

「良いけど、一緒に考えてよね? じゃないとコラボしてやんないし!」
「はい! 剛力さんも意見お願いします! 声の出し方、テンポ、抑揚の付け方とかなどあるので!」
 歌のことになると子供のように無邪気になるやつ。……悪くないな。
「どんな歌にします? やっぱりハード系ですか? それとも新たなジャンル開拓しちゃいますか?」
「……ずっと恋なんかしないと決めていたJKが、恋に落ちた瞬間を歌にするのは?」
 私は平常心を保っているように見せかけ、内心は心臓バクバクだったりする。
「JKボカロP Akira初の恋愛バラードですね! 俺も恋愛ソングを歌ったことないので挑戦してみたいです!」
 お、言ったな。知らないぞ?

「題名は速攻で決まったわ! 心得て聞いてよね?」
「勿論です!」
 こちらをマジマジと見つめるこの顔がどうなるのか、ワクワクする自分がいる。
 顔を上げ、大好きな彼を見つめて一言。
「君のギャップに惚れた!」
 指を指し、ニッと笑いかけた。