君のギャップに惚れた!

 終わった。
 その姿を見た瞬間、思い描いていた未来がガラガラと崩れ落ちる音が聞こえたような気がした。高二の期末テストが終わり、あとは夏休みを迎えるだけだと気が抜ける日曜日。ギラギラと光る太陽が照り付ける昼過ぎだと言うのに、私の体はカチコチに凍り付く。

 ここは都内に存在する、カラオケボックス。ボカロPや歌い手が集まり交友会をする、催しが行われることになっていた。いわゆるオフ会みたいなものだ。……そこに、同じクラスの真面目くんがいたー!
 真面目くんこと、真部(まなべ) (つとむ)。第一ボタンまで留めた半袖青色のブラウスに、シャキッとした黒の長ズボン。スラリとした高い背、猫っ毛がクリクリとした黒髪。真面目を絵に描いたような風貌に、極め付けには丸渕メガネ。そんな学年一位の真面目くんも、私と顔を合わせた瞬間に体を硬直させていた。
 極め付けには真面目くんも、私と同じく「終わったー!」と言いたげな表情をしている。今更気付かなかったフリをしてこっそり逃げるとか、そんなごまかしは効かないことが嫌ってぐらいによく分かる。
 仕方がなく、別に気にしていませんけど? の態度で居ると、主催者の方に案内されたのはカラオケ店の団体客用の大部屋。そこは中央にテーブルが置かれ、囲むようにソファが設置されている。適当に座るように声をかけられたから、私は二十代前半と公言されている女性の間に入り会釈しながら座る。
 今日の集まりは、男女五人ずつの十人。世代も、境遇も、活動場所も違うけど、ただ合うのは一つ。それはみんな、音楽を心から愛していることだ。

「じゃあ、自己紹介からしていきましょう。活動名だけで、本名や年齢などの個人情報はくれぐれも漏らさないようにお願いします」
 そう仕切ってくれるのは、本日の催しを呼びかけてくれたセイさん。活動の場で三十代だと公言されているセイさんは登録者数三万人超えの人気ボカロP。SNSで歌い手とボカロPが集うグループを作ってくれ、そこで交流を楽しくしていた。そんなやり取りが一年経った頃、グループで一度会って交流会をしようとセイさんが呼びかけ企画をしてくれた。今回は初めてだからと、都内メンバー十人のみの交流会となる。このカラオケ店はセイさんが経営しており、一室まで提供してくれるほどにこの界隈を盛り上げたいと話していた。
 私はセイさんの想いに感謝しつつ、今日という日を指折り楽しみにしていたのに何でこうなった? 頭の中でモヤモヤ〜としていると私の番になり、活動名のAkiraの名を告げる。

「……え?」
 他の参加者さんはにこやかに拍手を送ってくれるが、明らかに真面目くんだけその手を止めたかと思えば目を細めて私をジーと眺めてくる。
 こっち、見るなー! もー、真面目くんはムシ! だって私は「大和さん」に会いに来たんだから!
 そう。こうゆう催しは絶対パスの私が今日思い切って来たのは、憧れの歌い手である大和さんに会いたかったから。だから真面目くんはムシムシ!
 ……でも誰なんだろう? それっぽい男性は違ったみたいだし。もしかしてハスキーボイスの女性だったの?
 チラッと見たのは、真面目くんの右隣に並んで座る二人の女性。キリッとした風貌にドキリとし二人にキラキラとした視線を送ってしまうが、大和さんではなかった。
「次は君だよ?」
「あ、すみません」
 変わらず私にヤバい視線を送ってくる真面目くんは、自分の順番が回ってきても全く気付いていない。彼が歌い手なわけないし、ボカロPの方かな? 人は見かけによらな……。
「歌い手の大和です」
 俯きボソッと呟く声に、私の心臓がまたドキリと音を鳴らす。
「……え? えー!!」
 初対面で他の人は控えめに話をしている中、私は部屋に響くほどの素っ頓狂の叫び声を上げてしまった。次は私が口をパクパクさせ、真面目くんの顔に穴が空くぐらいじっと見つめてしまう。
 真面目くんが大和さん? そんなはずは!
「へぇー。君が大和くんか。確かAkiraさんの曲を歌っていたよね?」
「はい。……俺は」
 主催者のセイさんに向けられていた視線はこっちに向かい、真っ直ぐな目で見つめてきた。

「……すみません。具合悪くて……」
「え? 大丈夫? 言ってくれたら良かったのに」
 私の態度からなんとなく察してくれている、歌い手として活躍されている(さき)さん。「Akiraちゃんは具合悪そうだから」と主催者のセイさんに言ってくれ、また会おうねと私を帰してくれた。歌だけでなく、対応までヤバい。