なんで今日は土曜日じゃないんだろう。
 布団に潜りこみながら、強すぎる雨音から耳を塞ぐ。
 少しするとスマホの目覚ましが鳴り始め、耳障りなそれを止めた。
 準備を始めなければいけないことはわかっている。
 だけど、全身が鉛みたいに重い。
 すると、ノックの音がした。

「柚衣、起きてる?」

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、お母さんの声。
 私が時間になっても部屋を出ないから、様子を見に来たみたいだ。

「……起きてる」

 この小さな声が部屋の外に聞こえているのかわからないけど、大きな声を出す気力もなかった。

「柚衣、入るよ?」

 どうやら聞こえていなかったみたいで、お母さんはドアを開けた。
 まだ布団にもぐりこんだままの私を見て、心配そうにそばに座る。

「朝ごはん、食べられそう?」
「……ん」
「そう? 無理はしないでね」

 そしてお母さんは部屋を出ていった。
 今の言葉に甘えて、休もうかな。
 でも、その選択をすると、私は私が許せなくなりそう。
 だったら、今降っている雨がもっと大雨になって、休校になれ。
 布団に潜りこみながら、そんなバカなことを考える。
 こんなに憂鬱なのは、中学三年のあの日以来だ。
 私が初めて告白されて、誰かの恋愛物語の登場人物にされたあの日。

 ――相馬のことが好きだから、付き合ってほしい。

 そう告白してきたのは、当時仲が良かった(やなぎ)くん。
 あのころは性別の壁なんて知らなくて、もっと言えば、男女の友情が成立するとすら思っていた。
 よくも悪くも小学生の距離感を保っていたことが、一番の原因だっただろう。
 柳くんに告白されたことで、私もそういう目で見られることがあるんだと自覚した。
 だけど、あのときの私は今よりも恋愛感情が理解できていなくて。
 当然のように、その告白を断った。
 ただ、どんなふうに答えたのかは、記憶に蓋をしてしまったから正確に覚えていない。
 でも、冷たい言葉を返してしまったのだと思う。

 ――あのさ……好きじゃないなら、思わせぶりな態度を取るの、やめたほうがいいと思う。

 柳くんがつらそうで、泣きそうな顔をしながらそう言ったことは覚えているから。
 急に恋愛の舞台に上げられて。
 それまでの行動を否定されて。
 どうして柳くんがそんなふうに思っていたのか、まったく理解できない中で、柳くんを傷付けたんだということだけは理解した。
 それは、私が距離感を間違えたせいだということも。
 だけど、恐ろしかったのはそれだけじゃない。

 ――相馬さん、柳くんの告白断ったんだって?

 友達と言えるほど仲良くはなかったクラスメイトが、ただの好奇心でそんなふうに聞いてきた。
 知らない間に私たちのやり取りの情報共有がされていた。

 ――なんで断ったの?
 ――あんなに仲いいのに。
 ――もしかして、柳くん以外に好きな人がいるの?

 その野次馬精神が、最も理解できなかった。
 他人の恋路はそんなに面白いもの?
 それを聞いてどうするの?
 私には、なにもわからなかった。

 ――でも、あの距離感は絶対に友達じゃなかったよね。
 ――相馬さん、本当は柳くんのこと好きなんじゃないの?

 彼女たちは私の気持ちを勝手に作り上げていった。
 私が他人を避け始めたのは、そこから尾ひれがつき、変な噂が流れるようになってから。

 ――あの子って、距離感おかしかったよね。
 ――男好き?
 ――勘違いさせるほうが悪いよね。

 なにがその噂を加速させたのか、わからない。
 事実は、私が柳くんの告白を断ったということだけのはずなのに。
 他人からの印象で私の気持ちや行動理由が決まっていって。
 全部私が間違えていたんだと思ってからは、周りの目が怖くなって、教室に行けなくなった。
 いつも教室のドアの前で足がすくんで、入れなかった。
 別室で勉強しているときは、いつも自己嫌悪に陥っていた。
 嫌なことから逃げ続けていると、どんどん自分を嫌いになっていって、苦しかった。
 このままじゃダメだと思って、高校は中学の友人が一人もいない、少し遠いところを選んだ。
 全部やり直そうって、そう決めて。
 だけど、私はまた、間違えた。
 また知らない間に、恋愛の距離感に踏み込んだ。
 どうして、こんなに間違えてしまうんだろう。
 みんな、どうやって学んだの?
 知ってるなら、誰か教えてよ。
 そんな私の心の叫びは、雨音に流されていった。

  ◆

 昨日よりも重たい足を引きずって、校門をくぐる。
 足どころか、身体全体が重くなっているような気分だ。
 雨に濡れた靴を脱ぎ、上履きに履き替えると、教室の前まで移動した。
 だけど、目の前のドアに手が伸びない。
 あの日の恐怖心が身体にまとわりついて、私の動きを封じているみたいだ。
 このまま、誰も知らない場所に封印してくれないだろうか。
 いっそのこと、透明人間になれたら。
 そうしたら、なにも怖くないのに。
 次第に、周りの騒がしさが落ち着き始めた。
 そろそろ始業のチャイムが鳴ることはわかっても、まだドアを開けられない。

「相馬さん? そんなところに立ってどうしたの?」

 少し離れたところから担任の声がした。
 先生は私の隣に来ると、私が開けられなかったドアをあっさりと開けた。
 その音につられるように、クラスメイトたちがこっちを向いた。
 ただ音に反応しただけだとわかっているのに、あの記憶がリフレインする。
 私は今、ちゃんと立ててる?
 息をしている?
 逃げたい。
 ここではないどこかに、逃げてしまいたい。

「相馬さん、すごく顔色悪いけど、大丈夫?」

 先生の声で現実に引き戻されたけど、こんな状態で教室にいられるとは思えなかった。

「すみません……保健室、行ってもいいですか」

 自分でも驚くくらい、私の声は小さかった。
 こんなに怯えていたのに、ここまで来たことを褒めてやりたい。

「ええ、もちろん。誰かに付き添ってもらう? 一人で大丈夫?」
「先生、私が付き添う!」

 すると、凛花が勢いよく手を挙げた。
 今は凛花と話したくなかったのに。
 そんなふうに思ってしまったせいで、ますます凛花の顔が見れない。

「そう? じゃあ、お願いね」
「はーい」

 凛花は元気よく答えると、私のもとに駆け寄ってきた。

「柚衣、大丈夫?」
「……うん」

 無邪気な凛花に、沈んだ声しか返せない。
 笑顔を作る気力もない。
 そのせいか、凛花は眉頭を寄せ、そっと隣に立った。
 そして私たちは、始業を告げるチャイムを聞きながら、保健室に向かう。
 その途中にいろいろ話しかけられるかと思ったけど、誰もいない廊下で話せば声が響くからか、凛花は黙って隣を歩いている。
 だけど、その沈黙が逆に恐ろしい。
 教室から逃げたはずなのに、逃げた気がしない。
 一人で行けると、断っておけばよかった。

「失礼しまーす」

 保健室に着くと、凛花はそっとドアを開けた。
 保健室には、養護教諭の先生が一人いた。
 
「あら、どうしたの?」
「相馬さんが体調悪いみたいで、連れてきました」
「そうなの?」

 先生に視線を向けられ、小さく頷く。

「熱っぽいのかな?」
「いえ……ちょっと寝不足で」

 本当の理由を、先生なら聞いてくれただろう。
 でも、凛花がいるところで話すのは、気が引けた。

「そう。じゃあ、少し休んで、様子を見ましょうか」

 先生はそう言いながら、ベッドを囲っているカーテンを開けた。
 そこに行くように促されているような気がして、私はベッドに近付いた。
 荷物をベッドのそばに置くと、制服で寝ることに違和感を抱きながら、ベッドに入る。

「じゃあ、あなたはもう教室に戻りなさい」
「えー、柚衣のことが心配なのに」

 顔は見えないけど、凛花が不服そうにしているのがわかる。
 こんなに心配してくれるなんて、と嬉しく思う反面、やっぱりあのことに触れようとしているのかな、なんて怖く感じた。

「授業があるでしょう」

 先生がそう言ったことで、きっと凛花は、さらに不満を顕にしていることだろう。

「柚衣、また来るね」

 だけど、凛花はそう言い残して、保健室を出ていった。
 静かな空間に、暖かくて柔らかい布団。
 少しずつ、私の中にあるもやもやを包み込んで鎮めてくれているような気がしてくる。
 そして私はゆっくりと、眠りについた。

   ◆

 目が覚めたとき、一瞬ここがどこなのか、わからなかった。

「あら、起きた?」

 身体を起こし、目が合ったのは、少し離れたところにある机で事務作業をする先生。
 そこでやっと、私は保健室で眠っていたことを思い出した。
 先生は席を立ち、ベッドのそばにやって来た。

「体調はどう? まだしんどい?」
「いえ、寝たので、もう大丈夫です」
「そう? 無理をしたらダメだからね?」

 先生の声が優しくて、なんだか甘えたくなってくる。
 先生なら、話を聞いてくれるだろうか。
 私の心に住み着いた、このもやもやを。

「なにか相談ごとがあるなら、聞くよ?」

 すると、先生はそう言って、ベッドの横にある丸椅子に座った。
 私の心の声を読んだのかと思って、驚いてしまった。
 さすがに、タイミングが良すぎる。

「寝不足もあったんでしょうけど、それよりも、なにかに悩んでるように見えたから。違った?」

 そう言われて、私は首を横に振った。
 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。
 いやきっと、先生がそういったことに敏感なんだろう。
 だとしたら、誰にも理解してもらえないことも、受け止めてくれる気がする。

「……私、ずっと、人との距離感がわからなくて……人の目も、噂も怖くなって、つい避けてしまうんです」
「なにか、あったの?」

 私は、中学時代のことを、簡潔に話した。
 お母さんにも言えなかった、教室を遠ざけた理由。
 それを、先生は静かに聞いてくれた。

「私……こうやって逃げている自分が、どうしても許せなくて」
「どうして?」
「どんどん……自分を嫌いになるから」

 自分を嫌いになればなるほど、生きるのがしんどくなる。
 その負のループから抜け出したいのに、なかなかできなくて。
 そしてまた、私は私を嫌いになる。
 目を背けて、その気持ちに蓋をしたとしても、こうやって蘇ってくる。

「それは、苦しいでしょう」

 先生は、私の思いを代弁してくれた。
 やっぱり、先生に話してよかった。
 私は、励まされるんじゃなくて、誰かに共感してもらいたかったんだ。

「これは私の意見だし、聞き流してもらっても構わないんだけど……どこかに逃げているんじゃなくて、居心地のいい場所を探しているんだと思うの。例えば、サウナみたいに暑い場所が好きな人もいれば、クーラーがんがんで寒い部屋が好きな人もいる。それは、自分の居心地のいい場所を自分で選んで、そこにいる。だから、教室以外にあなたの居場所を探してもいいと思う」

 ……そっか。
 私は、教室にこだわりすぎていたのか。
 違う場所を探してもいい。
 そう言ってもらえただけで、一気に心が楽になった。
 それに気付いたのか、先生は優しく微笑んでいる。

「さて、そろそろ四時間目が終わるけど、どうする?」

 それはきっと、教室に戻るかどうか、ということだろう。
 私のいたい場所は、私が選んでいい。
 さっきの言葉を思うと、今日は教室に行けそうにない。

「……今日は、保健室にいたいです」
「わかった。今日だけじゃなくて、いつ来てもいいからね」

 先生はそう言うと、さっきまでいた机に戻った。
 
「そうだ、そこの机、自由に使って」

 先生が指したのは、部屋の中央にある、白くて大きな机。
 もう眠たくないし、お言葉に甘えて机を借りよう。
 ベッドのそばに置いていたカバンを持って机のほうに移動すると、数学の課題がまだ途中だったことを思い出し、それに取り組んだ。
 そして二十分もしないうちに、チャイムが鳴った。

「よかった、柚衣まだいた!」

 このまま保健室でお弁当を食べようかと悩んでいると、ドアが開いたと同時に、元気な声が聞こえてきた。
 勢いよく保健室に入ってきた凛花は、お弁当を持っている。

「一緒に食べよ?」

 ここ最近は小河くんと食べていたから、そんな提案をされるとは思ってもいなかった。
 こんなにも純粋な目を向けられると、断りにくい。
 あと、久しぶりに凛花とお昼を過ごせるのは、私も嬉しい。

「うん、いいよ」

 私が答えると、凛花は満面の笑みで私の隣に座った。
 そして私たちは弁当箱を開く。

「ね、柚衣。もしかして多賀くんに告白された?」

 単刀直入すぎて、むせてしまった。
 それと同時に、私の嫌な予感は当たっていたのだと気付いた。

 ――相馬さん、柳くんの告白断ったんだって?

 過去の言葉と重なり、どんどん過去に引き戻されていく。

「なんで……」
「多賀くんの様子もおかしかったから?」

 凛花はそう言いながら、お弁当を食べ続けている。
 私の手は動かない。
 ひとつひとつ、あの日かけられた言葉が蘇ってくる。
 どうして。
 ううん、わかってた。
 凛花なら触れてくるって。
 だから今日は一緒にいたくなかったんだ。

「え、柚衣、もしかして気付いてなかったの? 多賀くんが柚衣のことが好きだって。あんなにわかりやすかったのに?」

 私が戸惑いを隠せないでいると、凛花は信じられないというような顔をした。
 そんなの、わかるわけがない。
 わかっていたら、私はもっとちゃんと、多賀くんと距離を置いていた。

「じゃあ……多賀くんのこと、好き?って聞いてきたのは……?」
「両想い確定だから、すぐにダブルデートとかできるかなって思って」

 随分と勝手な話だ。
 そんなところまで話が飛躍しているなんて、思っていなかった。

「まあでも、私は多賀くん、あんまりおすすめできないけどね」

 それは、予想外な言葉だった。
 凛花に一度おすすめされたこともあるけど、多賀くんは小河くんの友達だ。
 それなのにおすすめできないなんて。

「どうして?」
「勉強会のときのこと、覚えてないの? あんな無神経なことを無意識に言っちゃう人は、無理」

 凛花はデザートのイチゴを頬張る。
 そこに嘘はなさそうで、ますます混乱した。
 だけど、腑に落ちている私もいた。
 あの日、凛花は自分で小河くんとの時間を作ると言った。
 それまでは多賀くんを通して小河くんのことを聞いていた記憶がある。
 それを辞めると言ったのは、それが理由なのかもしれない。

「で、柚衣は告白断ったの?」
「えっと……付き合うかどうか、考えてほしいって、言われて……」
「保留されたんだ? だから多賀くんもそわそわしてたのかな」

 教室での多賀くんの様子を、なんとなく聞きたくないと思ってしまった。
 それを知ると、罪悪感から判断が揺らいでしまいそうで。

「付き合うの?」

 小さく首を横に振った。
 告白を受けないなんて、凛花が納得してくれないような気がして、顔が見れない。

「そっか」

 だけど、予想外にも、凛花はあっさりとした反応を見せた。

「え……」

 つい、それだけ?と思ってしまった。

「ん?」
「凛花なら、なんでって聞いてくるかなって、思ったから……」
「無理強いはしないよ。恋は誰かに言われてするものじゃないもん。柚衣が違うなって思ったなら、それまで」

 そのあっさりとした反応は、私にとっては救いだった。
 そしてご飯を食べ終えると、凛花は小河くんとの惚気話を始める。
 メッセージのやり取りに関する話がメインで、小河くんが好きな食べ物だったり、小河くんがよく使うスタンプだったり。
 そういった小さなことにすべて感想をつけて話をしていった。
 その話の中で、ひとつ気付いたことがある。

「でね、私がまだ眠くないかもって言ったら、朔くんが寝落ち通話する?って言ってくれてね」

 呼び方が、小河くんから朔くんに変わっている。
 ほんの数日でそこまで距離が近くなっていることに、当然驚いた。
 だけど、それよりも、これ以上聞きたくないと思っている私がいることが、信じられなかった。
 凛花の恋バナが、私には「恋をしなさい」という圧をかけられているように感じて、苦しくなる。

「……柚衣?」

 凛花が私の違和感に気付き、名前を呼んだ、ちょうどそのときだった。
 ノックの音がし、先生が返事をした。
 ドアを開けたそこには、浅木くんが立っている。

「どうしたの? 怪我?」
「いえ、相馬さんに用があって」

 浅木くんの言葉を聞いて、昨日約束を破ってしまったことを思い出した。
 しかし、凛花は表情にわくわくを隠せなくなっている。
 浅木くんが、私を好き。
 きっと、そんな方程式ができたのだろう。
 なんでも恋愛に繋げられてしまうことに嫌気がさす。

「……倉本さん、ここにいてもいいの? 小河くん、女子に呼び出されそうになってたよ」

 どうやらそう感じたのは私だけではないみたいだ。
 浅木くんは冷たく、凛花を追い出すかのように言った。

「え、嘘!?」

 それを聞いて、凛花は慌ただしく保健室を出て行った。
 浅木くんは凛花の代わりにドアを閉めると、そのまま私のほうへ歩いてくる。

「相馬さん、昨日の放課後、来なかったでしょ」
「……ごめんなさい」
「まあいいいけど」

 浅木くんは興味なさそうに言うと、一冊の本を差し出した。

『光の届かない場所で咲く花たちよ』

 受け取った本のタイトルは知らなかった。
 だけど、青色の表紙は美しくて、目を引く。
 この本を読んでみたい。
 そう思うほどの美しさだ。
 そして、帯の言葉に驚いた。

『普通の恋ができない、すべての人たちへ』

 心を見透かされたような気分だ。
 ずっと、誰にも言えなかったし、誰にも気付かれなかったのに。
 どうして、浅木くんにはわかったんだろう。
 あまり関わってこなかったのに。
 だけど、浅木くんの言葉を思い出す。

 ――多分、僕は君と同じだから。

 同じだから、気付かれたのかもしれない。
 恋について悩んでいるのは、私ひとりじゃない。
 そう思うと、途端に楽になった。

「それ、読んでみて。きっと、救われるから」

 裏を見てあらすじを読もうとすると、浅木くんはそれだけを言って、私から離れていく。

「あ、それ僕のだから、返すのはいつでもいいよ」

 そして、保健室には私と先生だけになった。
 数学の課題も終わりそうで、お昼からどうやって過ごそうか悩んでいたから、ちようどいい。
 私はその本を開いた。

『誰にも見つからない場所でも、一輪の花は咲いている。光が届かなくても、ただ静かにそこにあった。周りと離れていてもいい。あの花は私にそう、教えてくれた気がした』

 プロローグの初めには、そう書いてあった。
 それだけで、浅木くんがおすすめしてきた理由がわかった気がした。
 私も、この物語に救われるだろうか。
 淡い期待を抱いて、またページをめくった。