「葛西はさ、ハロウィンの仮装をするなら何がいい?」

 テーマパークでキャラメルポップコーンを食べている最中に、何気なく話題にあげてみる。

「仮装かぁ……。考えたこともなかった」
「実際にするかどうかは置いといて、どんな仮装だったらやってみたい?」

 そう尋ねると、葛西は腕組みをしながら真剣に考え始めた。
 葛西は顔がいいから、どんな仮装も似合いそうだ。

 ヴァンパイアは色気が爆発しそうだし、狼男もカッコよく着こなせそうだ。ワイルドな海賊というのもアリだな。
 あれこそ想像しただけでも、頬が緩んでいく。

「逆に熊谷は、どんな仮装がしたい?」
「ええっ⁉ 俺?」

 まさかこっちに振られるとは思わなかった。
 俺だって仮装をしようと思ったことはないから、すぐには思い浮かばない。葛西のように格好いいわけじゃないから、似合うものも限られてくるし……。

 咄嗟にあたりを見回して、参考になりそうなものを探してみる。
 すると、ポップコーンの列に並ぶ、囚人服の女の子たちが目にとまった。

「……囚人とか?」

 囚人だったら、イケメンのイメージがないから、俺でも着られそうだ。囚人がモンスターなのかは疑問だけど。
 俺の言葉を聞いた葛西は、「ふーん」と怪しく笑う。

「熊谷は囚人か。じゃあ俺は看守だな」
「か、看守⁉」

 そういう合わせ方をしてくるとは思わなかった。たしかに囚人と看守なら相性抜群だけど……。
 ふと、警官風の制服に身を包み、黒い帽子を被った葛西の姿を想像してみる。不敵な笑みを浮かべながら、手元では鞭を揺らしていて……。

「うわっ、エロ……」

 ……マズイ。心の声が出てしまった。
 俺の声はバッチリ聞こえていたようで、葛西はプルプルと肩を震わせながら笑っていた。
 慌てて弁解しようとすると、葛西がすんっと真顔になる。

「囚人番号901。両手をあげろ」
「は、はいっ!」

 突然降ってきた命令に、反射的に従ってしまう。両手を挙げて固まっていると、葛西の瞳の奥がギラリと光った。

「来年の仮装は、囚人と看守で決まりだね」
「……や、やっぱり、仮装の話はナシで」

 そんな仮装をしたら、危ないプレイが始まってしまいそうだ。