※熊谷と葛西がお付き合いを始める前のエピソードです。
***
何をしても感情の動かない俺は、人間として欠陥があると思っていた。だけど最近は、少しずつ変わり始めている。
放課後に熊谷に声をかけた日から、俺たちは毎日一緒に下校するようになった。
いつもなら駅前で別れるけど、今日は少しだけ遠回りをしている。どうやら熊谷が寄りたい場所があるそうだ。
「ここだよ、葛西! いっぱい咲いてる!」
熊谷が指さす先には、ピンク色のコスモスがある。休耕田に蒔いたコスモスが見頃を迎えたようだ。
畑一面に広がるコスモスを見つめる熊谷の瞳は、キラキラと輝いている。花でこんなにはしゃげるのは、もはや才能だと思う。
「コスモスを見にきたの?」
「うん。あと、撮りにきた」
熊谷は、にっと笑うとポケットからスマホを取り出す。
「SNSで見たんだ。コスモスをローアングルで撮ると、花びらが透けて見えるんだって」
熊谷はコスモスの前でしゃがみ込む。花びらを見上げるようにスマホを構えてから、シャッターを切った。
――カシャ
写真を確認すると、「おおっ!」と声を弾ませる。
「一発で綺麗に撮れた。奇跡だ!」
盛り上がっている熊谷の笑顔があまりに可愛かったから、俺もスマホを構える。コスモスの前に立つ熊谷を画角に収めて、シャッターを切った。
「あっ、また撮ってるー」
シャッター音と同時に、スマホ越しに熊谷と目が合った。怒ったように口を尖らせる姿も可愛くて、もう一度シャッターを切る。
「……俺なんかより、コスモスを撮ればいいのに」
「撮ってるよ。コスモスも」
撮影した写真を見せると、熊谷は複雑そうに目を細めた。
「まあいいや。写真、SNSにあげるからちょっと待ってて」
熊谷は、ぽちぽちとスマホを操作する。俺もスマホを開いて、タイムラインで待機した。
一分後、青空に透かしたコスモスの写真が流れてきた。俺はすぐさま〝いいね〟を押す。
「わっ! もう〝いいね〟してくれた。早すぎじゃない?」
相手が俺とは知らずに、熊谷はギョッと驚いている。流石に早すぎて引かれたかと焦ったが、熊谷は嬉しそうに頬を緩ませた。
「でも、見つけてくれたのは嬉しい」
その笑顔に、またしても心を奪われてしまった。
この恋は、きっと叶わない。だけど君の隣にいるだけで、俺の心は満たされた。
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何をしても感情の動かない俺は、人間として欠陥があると思っていた。だけど最近は、少しずつ変わり始めている。
放課後に熊谷に声をかけた日から、俺たちは毎日一緒に下校するようになった。
いつもなら駅前で別れるけど、今日は少しだけ遠回りをしている。どうやら熊谷が寄りたい場所があるそうだ。
「ここだよ、葛西! いっぱい咲いてる!」
熊谷が指さす先には、ピンク色のコスモスがある。休耕田に蒔いたコスモスが見頃を迎えたようだ。
畑一面に広がるコスモスを見つめる熊谷の瞳は、キラキラと輝いている。花でこんなにはしゃげるのは、もはや才能だと思う。
「コスモスを見にきたの?」
「うん。あと、撮りにきた」
熊谷は、にっと笑うとポケットからスマホを取り出す。
「SNSで見たんだ。コスモスをローアングルで撮ると、花びらが透けて見えるんだって」
熊谷はコスモスの前でしゃがみ込む。花びらを見上げるようにスマホを構えてから、シャッターを切った。
――カシャ
写真を確認すると、「おおっ!」と声を弾ませる。
「一発で綺麗に撮れた。奇跡だ!」
盛り上がっている熊谷の笑顔があまりに可愛かったから、俺もスマホを構える。コスモスの前に立つ熊谷を画角に収めて、シャッターを切った。
「あっ、また撮ってるー」
シャッター音と同時に、スマホ越しに熊谷と目が合った。怒ったように口を尖らせる姿も可愛くて、もう一度シャッターを切る。
「……俺なんかより、コスモスを撮ればいいのに」
「撮ってるよ。コスモスも」
撮影した写真を見せると、熊谷は複雑そうに目を細めた。
「まあいいや。写真、SNSにあげるからちょっと待ってて」
熊谷は、ぽちぽちとスマホを操作する。俺もスマホを開いて、タイムラインで待機した。
一分後、青空に透かしたコスモスの写真が流れてきた。俺はすぐさま〝いいね〟を押す。
「わっ! もう〝いいね〟してくれた。早すぎじゃない?」
相手が俺とは知らずに、熊谷はギョッと驚いている。流石に早すぎて引かれたかと焦ったが、熊谷は嬉しそうに頬を緩ませた。
「でも、見つけてくれたのは嬉しい」
その笑顔に、またしても心を奪われてしまった。
この恋は、きっと叶わない。だけど君の隣にいるだけで、俺の心は満たされた。


