吉三郎さまに会いたい

息を切らし、ふらつきながら火の見櫓の梯子をやっと登りきり、思いきり鐘を鳴らした。


カン!カン!カン!

夜の町。静けさの中、鐘の音は鳴り響いた。

一打鳴らすごとに吉三郎に会える時が近づく、会いたい願いが叶う

お七は思った。

燃え盛る長屋の火を鐘を鳴らしながら見つめた。

吉三郎さまに会える
吉三郎さまに……会える
吉三郎さまに会える


幾度も呪文のようにつぶやき、鐘を鳴らした。

が、願いは届かなかった。


火付けは獄門張り付け、死罪。


役人が、まだ年端もいかぬ少女、お七を哀れに思い、幾度も「火付けは死罪と知らなかったのだろう」と尋ねたが、お七は幾度尋ねられても首を縦には振らなかったと言う。

お七は、詮議にかけられ死罪を下され、鈴ヶ森の処刑場にて命を散らした。


お七の心に燃えた炎の花は桜舞い散るように儚くも、美しかったと伝えられる。