吉三郎!……会いたい

恋焦がれ、再び吉三郎に会いたいと お七は幾度も正仙寺を訪れたが、寺小姓の吉三郎は仏に仕える身である。

一時の気の迷いだったのだろうと 会わせてはもらえなかった。

会えない辛さ苦しさは更に、吉三郎への思いを募らせた。


会いたい……どんなことをしてでも、吉三郎さまに会いたい


火事になれば……そう、もう一度、江戸の町が大火になれば吉三郎さまに会えるかもしれない
いや……きっと!会えるに違いない


お七の思いは、情念となり狂気へと化した。


火付けは獄門張り付け、死罪である。

それでも、吉三郎さまに会いたい

お七は、修羅となり夜叉となり、吉三郎に会えると ひたすら信じて長屋に火を放った。

くすぶりながら少しずつ燃えあがる炎に心は、喜びに震えた。

吉三郎さまに会える

これで吉三郎さまに会える


お七は炎が燃えあがるのを見届けると、火の見櫓へと走った。

火事を知らせる鐘を鳴らすために。

吉三郎恋しさに狂気に冒された心、ふらふらとふらつきながら――。

吉三郎さまに会える……喜びに胸踊らせ、吉三郎に会いたい唯一心で。

着物ははだけ、下駄の鼻緒が切れ素足になった。