漆黒を明々と照し、花火が次々に空を飾る。

爆音とともに歓声が大川に響いた。

その中を　一際派手な装飾を施した豪華な御座船が、ゆっくりと進む。

藍は御座船の船尾に座り、徳川家茂のからくり人形を操る。

大川の川開きを観覧している大勢の視線──。

藍は、気付かれないように細心の注意を払い、家茂の人形に優雅に手を振らせる。


「家茂さま──っ！」

歓声が怒号の如く鳴り響いた。


これは家茂の脱け殻なのに……。わたしが操らなければ、ただの人形なのに……。

藍には何故こんな人形１体に誰もが歓声をあげ、満足そうにしているのかが理解できない。

あの花火師、龍斗も家茂の御前で自分の花火を披露できることに至極の喜びを感じているのだろうか？

ふと川岸に瞳を游がせた。

視線の先に忙しく動く、背の高い花火師の姿が微かに見える。