夜風に漂い流されながら船の炎は、更に激しく燃え盛る。

岸辺を沿うように咲く桜並木から風に吹かれて桜の花弁が舞い込んでは炎の中に消えていく。

御座船の炎は更に激しくなり船は船尾から次第に傾き始めた。

炎に包まれながら沈んでゆく船を何度も振り返りながら、藍は岸を目指して泳いだ。

岸に辿り着いたが、ホッとしている間はない。

江戸中から火付け盗賊改が大川の川開きと花火大会のため総動員されているにちがいない。


人混みに紛れ、今は逃げることに集中しなければ!


頬を伝う涙を拭うたび、右手の甲に数枚桜の花弁を散らしたように、赤く腫れた火傷がヒリヒリと痛んだ。

藍は、ずぶ濡れの着物を引き摺りながら人混みを掻き分け、懸命に逃げる。

生きて再び龍斗に会うために


藍の頬に涙があとからあとから伝った。