「……というわけで、引き続き、三善先生には化学の授業を担当してもらうことになった」

 翌日の朝礼で、校長先生から生徒に告げられた。
 あの後、茉優も含めた飲み込まれた人たちは、飲み込まれる前の場所にそのままいた。何が起こったかわからないのか、誰も彼も首を傾げていたが、それもごくわずかな時間のことだった。実際、茉優自身も妖に飲み込まれたことを覚えていなかった。
 全部、先生のおかげだ。
 壇上で、腰が低い様子でぺこぺこと生徒たちに頭を下げている様子は、陰陽師の三善先生にはとても見えない。どっちが本当の姿か、結菜にはわからない。
 ともあれ、乾いた笑いをしながら三善先生がぺこぺこしていたのは、何とも奇妙だった。
 放課後、案の定三善先生から化学準備室に来るように呼び出された。
昨日の今日でどんな顔で会えば良いのかわからなかったが、呼び出された以上行かないわけにはいかない。準備室の前で何度か深呼吸をしてから、扉をノックした。
 相変わらずの人が良さそうな声で返事をしてきた。ゆっくりと扉を開けると、背を向けて何かの作業をしていた。パソコンも立ち上がっているところを見ると、仕事中だろうか。

「おせぇ」

 舌打ちしながら、振り返った三善先生はかつてないほどの不機嫌さがわかるような表情だった。

「あ、あの今日は一体どういったご用件で」
「あ?」

 この人、なんで呼び出したのか忘れたのだろうか。ガシガシと頭を掻きながら、特大のため息を吐く姿は、相変わらず聖職者には見えない。この人どうして先生になったんだろうかと、毎度思わざるを得ない。

「まぁまぁ、ここに座れ」

 指定された席に大人しく座るなり、三善先生はずいっと顔を寄せてきた。三善先生ファンにとっては最高のシチュエーションかもしれないけど、結菜にとっては悪い大人にしか見えない。

「これからも、秘密を漏らすことがあるならば、どうなるか、わかるよな?」

 あまりの圧に、結菜はただ頷くしかなった。

「ならば、これからもよろしくね、日下部結菜さん?」

 どうやら、結菜の生活はまだ落ち着く気配がないようだった。

 了