覚悟を決めた時、後ろから一筋のまばゆい光が放たれた。あまりの眩しさに結菜は目が眩んだが、その光の源が自分のリュックだと気づき、慌ててリュックを抱きかかえるようにした。
 光が放たれている原因を探っていると、自分のペンケースに辿り着いた。眩しさに目を細めながら、ペンケースを開けると、そこには三善先生が渡してくれていた白い紙だった。
 ペンケースから紙片を取り出そうと結菜が手を伸ばしたところで、紙片はペンケースから飛び出していった。
 くるり、くるりと宙で回転した紙片は、人型に変化した。アレは家にある書物で見たことがある。確か式神だったはず。
 式神を見つけた妖は結菜からそれに興味が移ったらしく、今度は式神を追いかけ始めた。結菜はその隙に屋上の扉に駆け寄って、ドアノブを掴んだ。ガチャガチャとドアノブを乱暴に回してみたが、何故か扉が開かなかった。

 どうして。壊れたの。まさか、さっきの妖が。
 何度回しても扉が開く気配がない。どうしよう。どうしよう。せっかく、三善先生が助けてくれたのに。
ふとそれまでまばゆい光を感じていたのに、再び真っ暗になったことに気づいた。恐る恐る振り返ると、鎌を振り回していた妖が結菜に標的を定め直していた。

 ――ニゲテイルツモリカ?

 いびつな金属音のような声が耳元で聞こえた。結菜は咄嗟に声が聞こえてきた方とは反対側に飛びずさった。肩で息をしながら、結菜は辺りを見回した。大鎌の先には先ほどの式神が刺さったままだったのを見つけた。どうやら、この妖にやられてしまったのかもしれない。

 ――オロカナ、オンミョウジモドキ。ショセンハ、カガクニオボレタニンゲンダ

 背後から囁いてくる非常に不快な声に結菜は耳を覆った。暗闇に目が慣れてきたが、それでも相手有利なこの状況はかわらない。
 相手が大鎌を構えた隙に、結菜はもう一度駆け出そうとしたが、左足首を何かに掴まれた。つんのめった結菜は、したたかに体を地面に打ちつけた。辛うじて手をつくことができたが、勢いが良すぎたためか、手のひらがジンジンと痛む。ゆっくりと足の方を見ると、およそ人の手には見えないほど腐食したものが地面から生えていた。骨がところどころ見えており、どうやって動かしているのかわからない。粘着質のある液体がまとわりついているのか、靴下が濡れていくのが分かった。

「い、いや」

 結菜は小さく首を振った。
 死にたくない。