「でも、まさか忘れ物をするなんてぇぇ」
自室の机に突っ伏した結菜は、唸り声にも聞こえてしまうような声で言った。家に帰ってから夜ご飯を終えるまで、化学の教科書とノートを学校に置き忘れてしまっていることに気づかなかった。普段なら諦めがつくが、残念なことに明日提出の課題があったことを結菜は思い出した。明日登校して授業までに間に合う量ではないし、何より化学の授業は一時間目。時間が足りない。朝早く起きて行くのもどちらかと言えば結菜自身は苦手な部類だ。
色々考えあぐねた末に、結菜は諦めて、学校に取りに戻ることにした。
幸い、家から学校までは数駅で、電車に乗るタイミングさえよければ、往復一時間くらいで帰って来られる。学校指定のリュックを背負い、スニーカーを履いていると、後ろから祖母が声をかけてきた。
「こんな時間に行くのは、やめなさい」
「でも明日提出の課題を置いてきちゃったし」
「ここいらは今は安全じゃない。結菜が対処できる相手ではないのよ」
「大丈夫、大丈夫。それにすぐに帰って来るから」
半ば祖母の話を無理やり切り上げて、結菜は家を出た。
今日は月が雲に隠れているせいか、駅まで向かう道が薄暗い。この薄暗さがどこか不気味ともいえる空気をどこか醸し出している気がしないでもない。良くないことが頭に過ろうとしたところで、結菜は頭から追い出すように首を横に振った。結菜は足早に駅に行くと、ちょうどタイミングよく電車がホームに入ってきていた。改札口を通り抜け、電車に乗ろうとしたところで、ふと違和感を覚えた。
結菜が通学に乗る電車の車体は、決まって車体にオレンジ色の線が一本横に引かれているだけで、他は塗装らしい塗装がなく、銀色だった。
それなのに、目の前の電車は濃紺の空と星がちりばめられているかのようなデザインだった。見たことが無い。夜にだけ走るラッピング車両だろうか。ピカピカに磨かれた車体はちょっとした高級ホテルを彷彿させた。
「きれい……」
車両の中は一体どんな感じなんだろう。ふかふかの座席があったりするだろうか。
結菜はふらりと足を前に進めた。
『まもなく出発します。ご乗車のお客様はお乗り遅れが無いようにお願いします』
ホームにアナウンスが流れた。ホームを見て見たが、他の乗客は既に乗り込んだ後のようで誰もいない。乗り遅れちゃダメだ。
電車に向かって駆け出そうとした時、だれかが結菜の左腕を掴んだ。がくんと前につんのめった。振り返るとそこにいたのは三善先生だった。黒色で統一されたスーツは、闇に溶け込みそうだった。胸元には見たことが無いが、陰陽道で使う五芒星のそれによく似ている。電車から漏れ出ている灯りに照らされているせいか、きらっと金色の輝きを見せた。
「お前は、バカか」
出会い頭に生徒にぶつけるべきではない言葉を言い放った三善先生は、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。授業で見る先生とは違い、目つきも態度もだいぶ悪い。組の若頭のように見えなくもない。
「どうして、先生が」
何度かパチパチと瞬きをはっきりした結菜が不思議そうに三善先生を見ると、先生は眉間に深く皺を寄せた。
「視える上に、巻き込まれやすいとか。無防備すぎだろ」
自室の机に突っ伏した結菜は、唸り声にも聞こえてしまうような声で言った。家に帰ってから夜ご飯を終えるまで、化学の教科書とノートを学校に置き忘れてしまっていることに気づかなかった。普段なら諦めがつくが、残念なことに明日提出の課題があったことを結菜は思い出した。明日登校して授業までに間に合う量ではないし、何より化学の授業は一時間目。時間が足りない。朝早く起きて行くのもどちらかと言えば結菜自身は苦手な部類だ。
色々考えあぐねた末に、結菜は諦めて、学校に取りに戻ることにした。
幸い、家から学校までは数駅で、電車に乗るタイミングさえよければ、往復一時間くらいで帰って来られる。学校指定のリュックを背負い、スニーカーを履いていると、後ろから祖母が声をかけてきた。
「こんな時間に行くのは、やめなさい」
「でも明日提出の課題を置いてきちゃったし」
「ここいらは今は安全じゃない。結菜が対処できる相手ではないのよ」
「大丈夫、大丈夫。それにすぐに帰って来るから」
半ば祖母の話を無理やり切り上げて、結菜は家を出た。
今日は月が雲に隠れているせいか、駅まで向かう道が薄暗い。この薄暗さがどこか不気味ともいえる空気をどこか醸し出している気がしないでもない。良くないことが頭に過ろうとしたところで、結菜は頭から追い出すように首を横に振った。結菜は足早に駅に行くと、ちょうどタイミングよく電車がホームに入ってきていた。改札口を通り抜け、電車に乗ろうとしたところで、ふと違和感を覚えた。
結菜が通学に乗る電車の車体は、決まって車体にオレンジ色の線が一本横に引かれているだけで、他は塗装らしい塗装がなく、銀色だった。
それなのに、目の前の電車は濃紺の空と星がちりばめられているかのようなデザインだった。見たことが無い。夜にだけ走るラッピング車両だろうか。ピカピカに磨かれた車体はちょっとした高級ホテルを彷彿させた。
「きれい……」
車両の中は一体どんな感じなんだろう。ふかふかの座席があったりするだろうか。
結菜はふらりと足を前に進めた。
『まもなく出発します。ご乗車のお客様はお乗り遅れが無いようにお願いします』
ホームにアナウンスが流れた。ホームを見て見たが、他の乗客は既に乗り込んだ後のようで誰もいない。乗り遅れちゃダメだ。
電車に向かって駆け出そうとした時、だれかが結菜の左腕を掴んだ。がくんと前につんのめった。振り返るとそこにいたのは三善先生だった。黒色で統一されたスーツは、闇に溶け込みそうだった。胸元には見たことが無いが、陰陽道で使う五芒星のそれによく似ている。電車から漏れ出ている灯りに照らされているせいか、きらっと金色の輝きを見せた。
「お前は、バカか」
出会い頭に生徒にぶつけるべきではない言葉を言い放った三善先生は、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。授業で見る先生とは違い、目つきも態度もだいぶ悪い。組の若頭のように見えなくもない。
「どうして、先生が」
何度かパチパチと瞬きをはっきりした結菜が不思議そうに三善先生を見ると、先生は眉間に深く皺を寄せた。
「視える上に、巻き込まれやすいとか。無防備すぎだろ」



