9章:新たなる暗雲
学園がようやく静けさを取り戻し、亜梨沙が安定した状態に戻ると、はるとたちの心には一抹の安心感が広がった。しかし、完全に元の平穏な日常に戻ったわけではなかった。亜梨沙の力をどう扱うか、赤月先生の意図、そして学園の今後について、解決しなければならない問題は山積みだった。
「亜梨沙は、もう大丈夫だよね?」愛海が心配そうに言う。彼女は保健室の外で待っていたが、はるとの表情を見て、その答えを恐れていた。
「うん、今は休むべきだと思う。だけど、彼女があの力を使い続けることができるかどうか、わからない。」はるとは低い声で答えた。彼女の目には、亜梨沙を守りたいという思いと同時に、その力を持つことの危険性に対する恐れが込められていた。
「でも、赤月先生があの力を狙っていたのは確かだし、私たちが亜梨沙を守るためには、彼の動きを抑えなきゃ。」愛海は、何か決意を固めたような表情を浮かべて言った。
はるとは頷きながら、ふと視線を向けた先に立つ直悠に目を留める。彼の表情も、いつになく真剣だ。「直悠、君は赤月先生が何をしたかったのか、わかってるのか?」
直悠はしばらく黙っていたが、やがてその冷静な目で答える。「赤月先生は、ただの教師ではなかった。あの人は、学園を異次元の力に繋げようとした。それが、竜の力を手に入れればできることだと思っている。」彼の声には、確信が込められていた。「でも、あの力が暴走した時の影響は計り知れない。あの力には、誰もが抗えない何かがある。」
「つまり、赤月先生がその力を完全に解放しようとした理由は、学園を異世界の力に繋げ、そこから新たな秩序を作るためだったってことか。」はるとの言葉に、直悠はゆっくりと頷いた。
「そうだ。あの力を完全に制御できる者がいない限り、異次元の力は常に暴走する。そして、あの力を制御できる者は亜梨沙だけだ。」直悠の目が鋭く光った。「でも、亜梨沙がその力を使い続けることができるかどうか、彼女自身もわからないんだ。」
「だからこそ、俺たちが亜梨沙を守り、赤月先生の野望を止めなければならない。」はるとの言葉に、愛海が静かに頷く。
その時、保健室のドアが開き、亜梨沙がゆっくりと顔を出した。まだ完全に体力が回復していない様子だが、彼女の顔には以前にも増して強い決意が宿っている。
「亜梨沙…」はるとは驚きながら、彼女に駆け寄った。「まだ無理だよ、休んでいた方がいい。」
「大丈夫、少し休んだだけで、私はまだ戦える。」亜梨沙の声は力強かった。その言葉には、ただの気丈な態度ではなく、亜梨沙が抱える覚悟が感じられた。「赤月先生を止めるために、私たちがどう動くべきか、考えないといけない。」
愛海は亜梨沙に近づき、優しく声をかけた。「亜梨沙、無理しないで。みんなで力を合わせれば、きっと何か方法があるはずだよ。」
亜梨沙はその言葉に微笑んだが、その表情はどこかしら寂しげだった。「でも、私だけでは限界がある。あの力を使うたびに、私は少しずつ壊れていく。だから、できる限りの時間を使って、赤月先生を止める方法を見つけないと。」
その言葉に、はるとたちは再びその覚悟に打たれる思いだった。亜梨沙の力を守るため、そして学園を守るために、彼らは再び立ち上がる決意を固めた。



