8章:終わりの後
学園内に静けさが戻った。しかし、その静けさは決して平穏なものではなかった。竜の力が暴走したあの瞬間、すべてが一変したような気がしてならない。異次元への引き寄せを止めることができたのは、亜梨沙の力によるものだが、その代償はあまりにも大きかった。
はるとは、亜梨沙を支えながら彼女を学園内の保健室へと運んでいた。亜梨沙の体はすでに冷たく、顔色も悪い。彼女はあの力を完全に制御するために、どれだけのエネルギーを消耗したのだろうか。
「亜梨沙、しっかりして…!」はるとの声は、必死だった。その手を握りしめるが、亜梨沙は微動だにしない。直悠が後ろから静かに歩み寄り、状況を見守っている。彼の表情には冷静さが漂っていたが、心の中では亜梨沙を心配しているのがわかった。
「今は、彼女を休ませることが最優先だ。力を使いすぎたんだ、彼女は。」直悠が静かに言った。その言葉に、はるとは何も反論できなかった。亜梨沙の体は、すでに極限の状態だった。もしもこのまま休ませなければ、命の危険があるかもしれない。
愛海が一歩前に出て、亜梨沙の横に膝をつく。「亜梨沙、しっかりして。私たちがいるから、大丈夫だよ。」その言葉に、亜梨沙は微かに目を開けた。薄く微笑んだその顔に、はるとは胸が痛む思いだった。
「ありがとう、みんな。」亜梨沙は小さな声でそう呟き、そのまま意識を失っていった。
数時間後、亜梨沙は安定し、ようやく眠りについた。保健室のベッドに横たわる彼女の顔は、穏やかであったが、依然として疲労が色濃く見えた。はるとはその横に座り、じっと彼女を見守っていた。
「もう、大丈夫だよな…?」愛海が横に座り、心配そうに亜梨沙の顔を見つめる。その目に浮かぶ不安が、はるとの胸にも重くのしかかる。
「大丈夫だよ。」はるとはゆっくりと頷いた。「亜梨沙があんなに強い力を使っても、無事に戻ってきてくれた。あとは…時間が必要だよ。」
「でも、あの力を使うことができるのは、彼女だけだってことがわかった。」愛海はつぶやいた。その言葉には、解決しきれていない問題への不安が含まれていた。
「うん…」はるとは少し黙り込んだ。あの「竜の力」は、亜梨沙だけが完全に制御できる力だ。だが、それを使うたびに彼女の命を削るようなものだった。それをどう扱うかが、これからの大きな課題になるだろう。
「それに、赤月先生がまだどこかにいることを考えると…。」直悠が口を開く。その言葉に、はるとは再び彼に視線を向けた。赤月先生のことは、全員が気にかけている問題だった。あの男が学園の異常事態を引き起こした張本人であり、今後の展開に関わる重要な人物であることは間違いなかった。
「赤月先生は、一体何をしたかったんだろうな。」はるとは低い声で言う。あの力を手に入れようとしていた理由、そして学園を異世界に引き寄せようとした目的は、未だに明確ではない。
「俺は、あいつが再び何かを起こす前に、徹底的に追い詰める必要があると思っている。」直悠の表情が、今まで見せたことのない決意に満ちていた。その言葉に、はるとも強く頷く。
「わかってる。俺も、できることは何でもする。」はるとは決意を固めた。学園を守り、亜梨沙を支えるためには、自分が何かをしなければならない。そして、その先に待つ試練に立ち向かう覚悟を、みんなと共に作っていくつもりだった。