6章:竜の力と学園の七不思議
地下室の空気が重く圧し掛かる。箱から放たれる赤い光がますます強まり、部屋の中の物質が震え始めた。はるとは一瞬、目を閉じ、深く息を吸い込む。その異常な状況に、心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。しかし、周りを見渡すと、仲間たちの表情にも同じ不安が浮かんでいる。
愛海は目を見開き、亜梨沙と直悠を交互に見つめている。亜梨沙は無言で箱の前に立ち続け、赤い光をじっと見つめている。目の前で何かが起こる予感を感じ取っているのか、その表情には強い覚悟が宿っていた。
「亜梨沙!」はるとは一歩踏み出すが、亜梨沙が手を挙げて彼を制した。
「大丈夫。私は大丈夫。」彼女の声には、いつもの明るさはない。それどころか、どこか切迫した感情が滲んでいるように感じられる。彼女が箱に触れると、強烈なエネルギーがその手に伝わり、周りの空気が歪んでいく。赤月先生が話していた「竜の力を引き寄せる者」という言葉が、今まさに現実のものとなっていた。
その瞬間、亜梨沙の顔に一瞬の激しい痛みが走り、彼女は足元を崩しそうになる。はるとは駆け寄り、彼女の肩を支える。
「亜梨沙!大丈夫か?」はるとの声に、亜梨沙は必死に微笑みを浮かべた。
「私は、強いよ。だから、心配しないで。」だが、その言葉がどこか虚しく響く。彼女の目の奥には、深い不安と覚悟が交錯しているのが見て取れた。
箱の中で、何かが目を覚ましたのだ。目の前に広がる赤い光の中に、暗い影が浮かび上がる。それは、まるで生き物のように動き、周囲の空気をさらに重くした。はるとはその正体を確認する暇もなく、亜梨沙が何かに引き寄せられるように力を振り絞って箱から手を離した。
「だめだ…」亜梨沙の声が震えていた。
その瞬間、赤い光が一際強く輝き、突如として、全ての音が消えた。周囲の時間が止まったかのように感じられる。その静けさの中で、箱の中から現れたのは、巨大な竜の影だった。光を放ちながら、空間を歪ませるようにその姿が広がっていく。
「竜の力…」直悠がつぶやいた。その声には恐れが混じっていたが、それ以上に好奇心が感じられる。彼は冷静に、目の前で繰り広げられる奇跡を見つめ続けた。
亜梨沙は再び手を箱に伸ばし、力を入れると、その竜の影が一瞬で縮まり、空間を支配する力が収束していく。だが、その力を操るためには、彼女自身がその力に飲み込まれることを覚悟しなければならなかった。
「亜梨沙、ダメだ!」はるとは叫ぶが、亜梨沙はただ静かにその力に向き合い、微笑みながら言った。
「私は、これで終わらせる。」その言葉とともに、彼女の身体から力が解放され、竜の力が再び暴走し始める。
その瞬間、学園の外から激しい震動が伝わってきた。地面が揺れ、窓ガラスが振動し、校舎が悲鳴を上げているかのようだった。
「これが、赤月先生の狙いだったのか…?」直悠がつぶやく。その表情は冷静だが、心の中で状況を完全に把握しているわけではないことが感じ取れる。