5章:教師の秘密
地下室で見つけた箱を手にした瞬間、はるとの手のひらに微かな震えが走った。箱の表面には、重厚な金属の刻印が施されており、古代の文字のように見える。それは、彼が予想していた以上に深刻な意味を持つものであると感じさせた。
「これ、ただの箱じゃない気がする。」愛海の声が低く、少し震えている。
箱を開けようとするが、その時、突然背後で足音が響いた。振り向くと、そこには直悠が立っていた。彼の表情はいつもの冷静さを保っているが、どこか思案げな様子だ。
「君たち、何をしているんだ?」直悠が静かに問いかける。その声は、いつものように優雅でありながらも、どこか危険を察知したような響きを持っていた。
「直悠…」はるとは一瞬ためらいながらも、決心を固めるように言った。「これは、赤月先生の言っていた『竜の力』に関係している。学園の七不思議、そして僕たちが目撃したあの現象も、きっとここから繋がっている。」
直悠はその言葉をじっと聞き、目を閉じた。しばらくしてから、深いため息をつく。「あの赤月先生のことか…。あの人、ただの教師じゃないだろうな。」
その言葉に、はるとは思わず頷いた。赤月先生が単なる異常な教師でなく、何かもっと恐ろしい存在であることは、すでに予感していた。しかし、それが何なのか、どうして学園に現れたのかが分からないままだ。
「赤月先生が学園に来たのは、何か目的があるからだ。」はるとの言葉は重く、部屋に響いた。直悠は少し躊躇いながらも、箱に近づいてきた。「もし、これが本当に『竜の力』を封じ込めたものであれば、その中身を触るのは危険だ。」
「でも、触れなければ何も進まない。」愛海が答えた。彼女の顔には、迷いと決意が交錯していた。彼女の中で、何かを解き明かすことが絶対的に必要だという思いが強くなっていた。
その時、亜梨沙が前に進み出た。「私が開ける。」その一言に、はるとは思わず驚きの表情を浮かべる。彼女の強さと精神的な鋼のような部分は知っていたが、なぜ今、亜梨沙がその役を引き受けるのかは、誰にも分からなかった。
「どうして?」はるとは不安そうに尋ねる。
亜梨沙は静かに笑みを浮かべ、箱に手をかけた。「だって、誰かがやらなければ、進まないでしょ。みんなを信じてる。」彼女のその言葉に、はるとは強く胸が締め付けられるのを感じた。亜梨沙は、自分の身を犠牲にしてでも周りを助けようとする。その気持ちが、重すぎて、誰もが言葉を失った。
箱の蓋がゆっくりと開き、内部に仕掛けられた複雑な装置が明らかになった。赤い光がその中から溢れ出し、まるで生き物のように脈打っているように感じられる。空気が重く、異常な温度がその場を包み込んでいた。
「これが、あの『竜の力』?」直悠がつぶやく。彼の声にも、明らかに動揺が見え隠れしていた。
箱の中には、古代の石のようなものが納められていた。それは、どこか神秘的で、圧倒的な力を秘めているように見えた。その石が放つ光は、何かを引き寄せるかのように強烈で、部屋の中に異常な静けさを生み出していた。
その瞬間、突然、地下室の扉がガタンと音を立てて閉まり、部屋の空気が一変した。今までの静寂が破られ、まるで何かが目を覚ましたかのように、強いエネルギーが室内に渦巻き始めた。
「何か来る…!」愛海が息を呑んで叫ぶ。彼女の目の前で、箱から放たれる赤い光が急激に強まっていった。その光が、まるで部屋を支配するかのように広がり、周囲の空気を変えていく。
はるとは、すぐに身構えた。全身に冷や汗がにじみ、心拍が速くなる。何かが、動き出した。それは間違いなく、誰かが予言した通りだった。だが、それが自分たちをどう動かすのか、誰もわからなかった。