1章:奇妙な始まり
放課後、学校の屋上は静寂に包まれていた。微かな風が、校舎の隅にある古びた椅子を揺らし、その音が遠くから聞こえてくる。夕陽が西の空に沈みかけており、オレンジ色の光が屋上の隅々まで差し込んでいた。その景色の中で、はるとと愛海は並んで座っていた。
「そういえば、また赤月先生が変わってるらしいね。」
愛海が呟くと、はるとは軽く肩をすくめる。「ああ、変わってるって言っても、あの人は元から少し変わってるだろ?」
愛海は少し考えてから、頷く。「確かに。でも、最近はもっと妙だって言われてるよ。聞いた?『竜の力を引き寄せる者』って言葉、彼が言ったんだって。」
はるとは驚きの表情を浮かべる。「それ、本気で言ったのか?」
「うん、どうやら本当みたい。」
愛海は、どこか不安げに窓の外を見つめる。彼女にとって、学校の謎めいた部分に触れることは少し怖い一方で、どこか好奇心もくすぐられているようだった。
その時、屋上の扉が音を立てて開き、赤月先生が姿を現した。長身の彼は、普段から冷徹な表情をしているが、今日の彼は少し異なった。髪が乱れ、顔色が悪い。何かが起きているのだろうかと、はるとは直感的に感じ取った。
「君たち、ここにいたのか。」
赤月先生の声はいつも通り冷静だが、その奥には何か不可解なものが含まれているようだった。愛海が口を開こうとしたとき、彼が静かに言った。
「『竜の力を引き寄せる者』は、選ばれし者だ。君たちも見ていくだろう、その力が解放される瞬間を。」
その言葉に、はるとと愛海は言葉を失った。何か不吉な予感が二人を包み込んだ。しかし、赤月先生はそのまま背を向け、足早に屋上を去っていった。
「なんだろう、あの言葉…」
愛海は小声で呟くが、はるとはその言葉を深く心に刻み込んだ。何かが始まろうとしている。学園に、そして自分たちの生活に、変化が訪れる予感がしていた。