俺達四人は中学一年生からの友達。クラスが変わっても、それは変わらなかった。
だけど、そんな関係が変わったのは中学三年の春。
翔が「男同士の話」だと言い、俺達の母校だった北小学校に俺を呼び出してきたことだった。
南小と北小の統合により、俺達の卒業と同時に廃校となった校舎はあまりにも懐かしい。
そして窓ガラスが割れた玄関から中に入れてしまい、屋上の鍵すらも壊れて外に出てしまえる、緩い管理体制に度肝を抜かれてしまった。
情報通の翔と、噂は本当だったと悪い顔をして中に入っていく。
オレンジ色の夕日に照らされる屋上。安全用に付けられたフェンスが一部壊れていて、廃墟の怖さを思い知る。
翔からは、さっきまでのふざけた表情はなくなり、背を向けたかと思えば、凛を好きになったとボソッと呟いていた。
だからこそもし俺も同じ気持ちなら、正々堂々と勝負したい。友情がなくなるのはなしだと、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
さすが大山中学校の野球部エース。なんの策もないストレート投球に、それは反則だと思った。……どこまでかっこいいんだよ。性格までなんて、ズルすぎるだろ?
俺は凛について改めて考えたが、やはり友達以上の感情はなく、心から応援すると話した。
むしろ最初に浮かんだのは小春の顔で、どこか気恥ずかしくて隠していた本心が露わになった、中三の春だった。
それから小春を見るたびに顔を背けてしまい、せっかく凛を通さなくても話せる仲になっていたのに離れていってしまった。小春が。
向こうからしたら突然避けられたと思うのは当然で、クラスがバラバラになったことからより関わりは減っていってしまう。
今までの俺なら、失敗したと交友関係を終わらせてしまっていたけど、翔に言葉に動かされなんとか謝り仲直り出来た。
だけど別のクラスになった弊害は俺には大きすぎて、行動を起こすことが出来なかった。
そんな中、四人とも同じ高校を受験することになり、それがキッカケでまた集まるようになった。高校は三校しかないほどの田舎で、特別すごいことでもない。
しかも翔と凛はスポーツ推薦で、小春は特進クラス。俺は一般入試で、立場は全然違った。
場所を変えて四人で座り込むも、話せることなんかなくて、黙り込んでしまう。
いや、話さなければならない。次を考えなければならない。
分かっているが口がどうにも重く、開けるのすら気力を削がれているぐらいだった。
そんな空気がまとう中、やはりその空気を断ち切ってくれたのは凛だった。
「……暴露した人が居たんだよね?」
その言葉に喉の奥が熱くなり、そのまま胃に落ちてきたように腹の中が焼けるように痛みが襲ってくる。
そうだ、誰かがあの二人を。……貶めたんだ。
「西条寺さんは音霧さんを疑っていたみたいだけど、そうなのかな?」
友達を?
まあ確かに、あのメッセージのやり取りをしていたのは音霧さんで、スクショをすることは容易だけど、本当にか?
「神宮寺くんと女性との隠し撮りや、ミーチュバーの女性とのやり取りとか。今は削除されているみたいだし、今回の為に用意したっていうより……」
凛の言いたいことは分かる。
つまり密告者は、事前に隠し撮りの画像や、ミーチューバの動画を個人的に保存していたとなる。
こんな暴露ゲームが起こるなんて想定していなかったはずなのに。
落としたかったのは神宮寺くんか、西条寺さんか、それとも両方か。
人間の醜さというものを知ったつもりでいたが、これほど悍ましいことまでするなんて。
……こんなデスゲームなんかに巻き込まれなかったら、知らずに済んでいたのに。
「みんな、ちょっと聞いてくれないか?」
その声に俺達が一斉に顔を向けると、そこには制服をキッチリ着ている北条爽太くんと、その後ろに音霧紗栄子さんがひっそりと立っていた。
北条くんは生徒会役員で、次期会長候補だと言われるぐらいの秀才。
眼鏡を上げる仕草すら知性的に見え、その奥に宿る柔らかな目元。
綺麗に切り揃えられた短髪は清潔感があり、同じ髪型の俺なんかモッサリしているのに、元が良い北条くんにはよく似合っている。
「なんか、紗栄子が愛莉ちゃんの暴露をしたとか思われていそうだから、一応否定しておきたくて。紗栄子は本当に暴露とかしてないし、大体あんなメッセージのやり取りなんか、してないって。翼のあの写真も、全て捏造じゃないかな?」
「……捏造」
北条くんが差し出してきたスマホには、神宮寺くんと女性が写っている画像が複数あり、それは証拠品として主催者が提示してきたものだった。
どうやらあのアプリを開き「一回目のゲーム」と表示されているところをタップすると、出来事を振り返ることが出来るらしく、証拠品の画像や二人のやり取りを録画したものまで見れる仕様だった。
「……悪趣味ね、本当に」
俺達の考えを代弁するかのように凛は呟き、俺達は目を凝らして画像を見ていくが、正直何を根拠に捏造だと言っているのかが分からなかった。
「ほら、今はAIとかでいくらでも合成写真や音声とか作れるし、翼はミーチューバもSNSもやってるから、写真なんて引用し放題なんだよ。紗栄子と愛莉ちゃんのメッセージのやり取りだって、アプリの機能を使用したらいくらでも捏造出来る。……二人とも以前から被害に遭ってたみたいだし、そうなんじゃないかな?」
「そう……なの?」
その話に食い気味になったのは俺だけで、無知ゆえにそんな機能があることを知らなかった。
逆を言えば他の三人は黙って聞いていて、その可能性を既に考察しているようだった。
もしそうなら、取り返しのつかないことになっている。
いや、既に死人が出ているからそうなんだが、これは神宮寺くんと西条寺さんの名誉による話で、特に神宮寺くんは女性にだらしがない男子となってしまう。
「お願い。死んでしまった二人を、これ以上冒涜したくないの。だから、あんなの信じないで……」
彼女である音霧さんは細く美しい声を出し、首を横に振ると背中まで伸びる黒髪のストレートヘアが可憐に揺れる。
音霧さんは北条くんと同じく生徒会に所属しており、次期副会長候補と呼ばれるぐらいに、北条くんを隣で支える存在とされている。
制服を綺麗に着こなす音霧さんは北条くんに並ぶスラリとした体型で、精悍とした目に、透き通る肌。
二人は二年三組の特進クラスに在籍しているだけでもすごいのに、それでいて試験は必ず学年トップをキープしている。
俺とは生きる世界が違い、このデスゲームに巻き込まれている者同士でなければ、こうして話すこともなかっただろう。
「だからさ、友達を密告するなんてやめて、みんなで助かろう」
北条くんがその言葉を口にした時、真っ暗だったこの先に一筋の光が差したような気がした。
「まあ色々と思うこともあるだろうけど、復讐は何も生まないから……ね?」
北条くんが俺を見つめて語りかける声は、温かくて、力強くて、発言の一つ一つに重みがあり、俺はただ頷いていた。
そうだ、密告がなければ良いんだ。
そしたら心乱されることもなく、俺達はただ指輪を外すことに意識を向けられる。
さっきのは、仕方がなかったんだ。
まさか本当に人が死ぬなんて、信じられるわけなかったんだから。
だから、今だけは感情を横に置いておこう。
……だって俺が暴露なんかしたら、そのリスクを背負うのは小田くんなんだから。
だけど、そんな関係が変わったのは中学三年の春。
翔が「男同士の話」だと言い、俺達の母校だった北小学校に俺を呼び出してきたことだった。
南小と北小の統合により、俺達の卒業と同時に廃校となった校舎はあまりにも懐かしい。
そして窓ガラスが割れた玄関から中に入れてしまい、屋上の鍵すらも壊れて外に出てしまえる、緩い管理体制に度肝を抜かれてしまった。
情報通の翔と、噂は本当だったと悪い顔をして中に入っていく。
オレンジ色の夕日に照らされる屋上。安全用に付けられたフェンスが一部壊れていて、廃墟の怖さを思い知る。
翔からは、さっきまでのふざけた表情はなくなり、背を向けたかと思えば、凛を好きになったとボソッと呟いていた。
だからこそもし俺も同じ気持ちなら、正々堂々と勝負したい。友情がなくなるのはなしだと、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
さすが大山中学校の野球部エース。なんの策もないストレート投球に、それは反則だと思った。……どこまでかっこいいんだよ。性格までなんて、ズルすぎるだろ?
俺は凛について改めて考えたが、やはり友達以上の感情はなく、心から応援すると話した。
むしろ最初に浮かんだのは小春の顔で、どこか気恥ずかしくて隠していた本心が露わになった、中三の春だった。
それから小春を見るたびに顔を背けてしまい、せっかく凛を通さなくても話せる仲になっていたのに離れていってしまった。小春が。
向こうからしたら突然避けられたと思うのは当然で、クラスがバラバラになったことからより関わりは減っていってしまう。
今までの俺なら、失敗したと交友関係を終わらせてしまっていたけど、翔に言葉に動かされなんとか謝り仲直り出来た。
だけど別のクラスになった弊害は俺には大きすぎて、行動を起こすことが出来なかった。
そんな中、四人とも同じ高校を受験することになり、それがキッカケでまた集まるようになった。高校は三校しかないほどの田舎で、特別すごいことでもない。
しかも翔と凛はスポーツ推薦で、小春は特進クラス。俺は一般入試で、立場は全然違った。
場所を変えて四人で座り込むも、話せることなんかなくて、黙り込んでしまう。
いや、話さなければならない。次を考えなければならない。
分かっているが口がどうにも重く、開けるのすら気力を削がれているぐらいだった。
そんな空気がまとう中、やはりその空気を断ち切ってくれたのは凛だった。
「……暴露した人が居たんだよね?」
その言葉に喉の奥が熱くなり、そのまま胃に落ちてきたように腹の中が焼けるように痛みが襲ってくる。
そうだ、誰かがあの二人を。……貶めたんだ。
「西条寺さんは音霧さんを疑っていたみたいだけど、そうなのかな?」
友達を?
まあ確かに、あのメッセージのやり取りをしていたのは音霧さんで、スクショをすることは容易だけど、本当にか?
「神宮寺くんと女性との隠し撮りや、ミーチュバーの女性とのやり取りとか。今は削除されているみたいだし、今回の為に用意したっていうより……」
凛の言いたいことは分かる。
つまり密告者は、事前に隠し撮りの画像や、ミーチューバの動画を個人的に保存していたとなる。
こんな暴露ゲームが起こるなんて想定していなかったはずなのに。
落としたかったのは神宮寺くんか、西条寺さんか、それとも両方か。
人間の醜さというものを知ったつもりでいたが、これほど悍ましいことまでするなんて。
……こんなデスゲームなんかに巻き込まれなかったら、知らずに済んでいたのに。
「みんな、ちょっと聞いてくれないか?」
その声に俺達が一斉に顔を向けると、そこには制服をキッチリ着ている北条爽太くんと、その後ろに音霧紗栄子さんがひっそりと立っていた。
北条くんは生徒会役員で、次期会長候補だと言われるぐらいの秀才。
眼鏡を上げる仕草すら知性的に見え、その奥に宿る柔らかな目元。
綺麗に切り揃えられた短髪は清潔感があり、同じ髪型の俺なんかモッサリしているのに、元が良い北条くんにはよく似合っている。
「なんか、紗栄子が愛莉ちゃんの暴露をしたとか思われていそうだから、一応否定しておきたくて。紗栄子は本当に暴露とかしてないし、大体あんなメッセージのやり取りなんか、してないって。翼のあの写真も、全て捏造じゃないかな?」
「……捏造」
北条くんが差し出してきたスマホには、神宮寺くんと女性が写っている画像が複数あり、それは証拠品として主催者が提示してきたものだった。
どうやらあのアプリを開き「一回目のゲーム」と表示されているところをタップすると、出来事を振り返ることが出来るらしく、証拠品の画像や二人のやり取りを録画したものまで見れる仕様だった。
「……悪趣味ね、本当に」
俺達の考えを代弁するかのように凛は呟き、俺達は目を凝らして画像を見ていくが、正直何を根拠に捏造だと言っているのかが分からなかった。
「ほら、今はAIとかでいくらでも合成写真や音声とか作れるし、翼はミーチューバもSNSもやってるから、写真なんて引用し放題なんだよ。紗栄子と愛莉ちゃんのメッセージのやり取りだって、アプリの機能を使用したらいくらでも捏造出来る。……二人とも以前から被害に遭ってたみたいだし、そうなんじゃないかな?」
「そう……なの?」
その話に食い気味になったのは俺だけで、無知ゆえにそんな機能があることを知らなかった。
逆を言えば他の三人は黙って聞いていて、その可能性を既に考察しているようだった。
もしそうなら、取り返しのつかないことになっている。
いや、既に死人が出ているからそうなんだが、これは神宮寺くんと西条寺さんの名誉による話で、特に神宮寺くんは女性にだらしがない男子となってしまう。
「お願い。死んでしまった二人を、これ以上冒涜したくないの。だから、あんなの信じないで……」
彼女である音霧さんは細く美しい声を出し、首を横に振ると背中まで伸びる黒髪のストレートヘアが可憐に揺れる。
音霧さんは北条くんと同じく生徒会に所属しており、次期副会長候補と呼ばれるぐらいに、北条くんを隣で支える存在とされている。
制服を綺麗に着こなす音霧さんは北条くんに並ぶスラリとした体型で、精悍とした目に、透き通る肌。
二人は二年三組の特進クラスに在籍しているだけでもすごいのに、それでいて試験は必ず学年トップをキープしている。
俺とは生きる世界が違い、このデスゲームに巻き込まれている者同士でなければ、こうして話すこともなかっただろう。
「だからさ、友達を密告するなんてやめて、みんなで助かろう」
北条くんがその言葉を口にした時、真っ暗だったこの先に一筋の光が差したような気がした。
「まあ色々と思うこともあるだろうけど、復讐は何も生まないから……ね?」
北条くんが俺を見つめて語りかける声は、温かくて、力強くて、発言の一つ一つに重みがあり、俺はただ頷いていた。
そうだ、密告がなければ良いんだ。
そしたら心乱されることもなく、俺達はただ指輪を外すことに意識を向けられる。
さっきのは、仕方がなかったんだ。
まさか本当に人が死ぬなんて、信じられるわけなかったんだから。
だから、今だけは感情を横に置いておこう。
……だって俺が暴露なんかしたら、そのリスクを背負うのは小田くんなんだから。



