同じ猫なのに人間を全く警戒せずに近づいてきて、喉をゴロゴロいわせる子もいれば、物陰に隠れてジッとこっちを見てるだけの子もいる。
 どっちが得か? って聞 かれたら、絶対に前者の猫だ。
 人にすり寄って喉をゴロゴロいわせて、「可愛い」って頭を撫でられてる猫のが幸せだと思う。
 何のプライドもなくお腹を見せて、無意識に媚びへつらって。
 そんな猫に、俺はなりたい。


 俺の恋人は、俺の聞き分けのいいとこが好きなんだと思う。
 なんでも「いいですよ」「大丈夫ですよ」って笑ってる俺がいいんだろうなって……。
 だから何をされても、何を言われても、何が起きても、我慢しようって決めている。あの人は甘えん坊で、俺は長男気質。だから一緒にいて絶妙にバランスがとれてるんだと思うから。
 成宮先生に嫌われたくないし、ウザいって思われたくないから我慢してるっかって聞かれたら、相当我慢はしている。
 でも逆に、それが彼への愛情表現にも思える自分もいて……。自由奔放な成宮先生を受け入れられるのは自分だけだって、そう信じたい。そうでありたいと思う。


「でもね、千歳さん……俺ちょっと疲れちゃった。俺もワガママ言いたい……」


 こんなくだらない呟きなんて、梅雨の雨に全部流されてしまえばいい。
 また、あなたの横で「いいよ」「大丈夫だよ」って笑ってるから。
 そう。あなたのお気に召すままに。


 そして、俺の恋人はとにかくハイスペックな人物でもある。
 小児科の若きスーパードクターとして活躍しているし、スタッフや患者さんからの信頼も厚い。
 成宮先生が道を歩けばみんなが振り返るくらい整った顔立ちで、モデルみたいにスタイルもいい。
「綺麗」っていう言葉は彼のためにあるような言葉だし、とにかくモテる。
 あの人の周りは、いつもミントの香りが漂っているようで……まるで、青い空がどこまでも続いている高原にいるように爽やかなのだ。


 そんな完璧過ぎる男は、なぜか俺にベタ惚れらしく溺愛してくれている。
「葵、可愛い」
 そう甘く耳打ちされて口付けられれば、身も心も蕩けてしまいそうだ。
「俺も、千歳さんが大好きです」
「俺も葵が好きだ」
 チュッと軽いリップ音をたてながら唇を啄め合えば、それだけでは物足りずに熱い舌を絡め合う。俺の理性は、どんどん崩壊していった。


「ふぁ、千歳さんのキス、気持ちいい……」
「ふふっ。葵は本当に可愛いな」
「もっと、もっとキスして……」
「いいよ、もっとキスしような」
「ん、んん。はぁ……」
 俺の髪を撫でながら再び重ね合わされる唇と唇。もう、唾液で唇がグチャグチャだ。
「ねぇ、千歳さん。キスだけじゃ足りない」
「エッロい猫だなぁ」
「お願い……」
 こんな甘やかな時間が、ずっとずっと続くものだと思っていたのに……冬の天気は変わりやすくて。
 俺の心に雨を降らす真っ黒い雲が、ゆっくり音もたてずに近付いてきていたのだ。


 そんなことなんか露知らず、俺と成宮先生は久しぶりに休みが重なって、昼間から食事すら忘れてイチャイチャしていた。
 ドロドロに溶け合って、全てが気持ちいい。
「気持ちいい……もっと、もっと……」
「俺も気持ちいいよ。葵、好きだ」
 成宮先生がリズミカルに腰を打ち付けてくる度に、お腹の中を擦られているみたいで気持ちいいがいい。
 唇を奪われて、強く吸われて……このまま、成宮先生に食べられてしまいそうだ。


 こんな甘い時間に、俺は溺れきっていた。