静まりかえってしばらくしたあと、まことが「つまり」と唸るように口を開いた。


「そういう体質ってこと?」


「そうだ。軍人の時も彼のせいであやかしが次々と襲ってきたらしい。早々に辞めさせられたそうだ」


あやかしとは、人間に災いをもたらし時には人を殺しにかかる。
それを解決するための組織はいくつかある。

国家機関に属する軍人はあやかし退治も仕事の一つだ。そして私たち巫女も祈祷や口寄せだけでなく、あやかしを祓うことも生業としていた。


「そして、洲崎家斬殺もあやかしの仕業じゃないかとふんでいるそうだ。ちえ、言いたいことが分かるか」


「つまり、洲崎家の血を引く櫂さんもいつかあやかしに殺されるんじゃないかってこと?
まさかそれを守るために私は」


ーーー嫁げ、と。


「ええ!だったらお姉さまより優秀な私が行くべきでしょ!お姉さまはあやかしを祓うことなんてできませんわ!虫も殺せぬ臆病者の姉ですよ、まあ、臆病者同士お似合いかもしれませんが」


父に縋るようにそう言い放ったまこと。
父はまとわりつくまことの手を払ってため息をついた。


「洲崎櫂がちえを望んでいる。ちえ、お前洲崎家の息子と顔見知りなのか」


「いえ、一度もお会いしたことはありません」


どうやら父もあちらがなぜまことではなく、私を選んだのかは分からなかったようだ。
まことの言うとおり、私はちゃんとあやかしを祓ったことがない。

出来のいい妹は能力にすぐれていたが、私は『普通』であった。
祓えないことはないが、災いをもたらすもの以外のあやかしをむやみやたらに祓いたくはない。

ーーーだって、あやかしは。


「ちえ、これを持っていけ」


私の前に置かれたそれは1つの刀であった。



「鬼怪刀だ」


「き、かい、とう」父の言葉をゆっくりと復唱してそれを持ち上げる。数刀しかない貴重な名刀である。どうにも使いこなせる自信がなくて一度地面に置こうとすれば父はそれを許さないというように持ち上げて私に押し付けた。


「お前は強い、だが優しすぎる、それがゆえに旦那様を死なせてしまっては代々巫女の家系が廃れてしまう。分かるか」


「…はい」


「その刀で、守れ」


強くそう言い放った父。
私は覚悟を決めて、刀を握りしめた。

これは私に課せられた仕事の一つである。
結婚などと浮ついている暇はない。

ーーーー臆病な旦那様をあやかしから守らなければ