「確かにこれはあんた宛みたいね。あはははは! 私はとても優しいから、返してあげるわ。ほら、ちゃーんと受け取りなさい!」

目の前に差し出されたペンダントには、小さなガラス瓶が入っていた。
ガラス瓶の中には銀色の液体が入っている。

「中に入っているのは猛毒よ。すぐに分かったわ。ふふふっ、誰かがあんたに飲ませたくて、わざわざ送ってきたのね!」

八久雲家の能力者は、ひと目見ただけで毒の判別が出来る。
茜の反応からして、これは本当に猛毒なのだろう。

ペンダントを持つひな乃の手がガタガタと震えだす。

「あんたって、八久雲以外にも恨みを買っていたのね! 本当おもしろーい。さすが裏切り者!」

ひな乃には知り合いなどいない。
恨みを買うような相手もいないはずだった。

誰が、何のために……。

ひな乃の心は沈んでいった。
八久雲家だけじゃない。この世の全ての人から疎まれているのだと、そう思った。

ひな乃が絶望に打ちひしがれているのを見た茜は、面白いことを思いついたように「そうだわ!」と言って手をパンと叩いた。

「ねえ、これ飲んでみなさいよ」
「え……?」
「送り主の気持ちを踏みにじりたくないんでしょ? だったら飲んであげないと。……ちゃんと死んであげないと、ね?」

ほら、と差しだされた液体を見る。
銀色の液体はこの世のものとは思えないくらいキラキラと輝いていた。

綺麗……。

ひな乃はその液体をじっくりと見つめる。
ゆらゆらと動くたびに煌めきが変化していく様子が、とても美しかった。

これを飲んで終わりにしても良いかもしれない。
もう生きていたって……。

ひな乃はガラス瓶の蓋を開け、そっと中身を飲み干した。

銀色猛毒は、毒巫女の神事で飲んだ毒ほど不味くはなかった。
むしろ、どこか懐かしい味だ。

辛い生活がこんな風に終わるのなら悪くない。
そう思えた。

「本当に飲んじゃったのー? あーあ、死んだらお父様に叱られちゃうわ」

茜が何か言っていたが、ひな乃の耳には届かなかった。