ある日、昼間にもかかわらずひな乃は屋敷の中にいた。
茜に呼び出されたのだ。

「ねえ、あんたに荷物が届いてるんだけど! どういうこと?」

玄関に連れてこられたひな乃は、苛立つ茜の前で首を傾げた。

「え? 私宛に、ですか?」
「そう言ってるでしょう? あんた、外に知り合いなんていたの?」
「い、いえ……」

足元に投げて寄越された箱を拾い上げてみても、確かに送り主の名前がない。
ただ『月守ひな乃様』と書かれている。

「ふぅーん、じゃあ私が開けてあげる」
「あっ!」

茜は荷物を奪うと、乱暴に箱を開けた。
箱の中には鞣革で作られた小箱が入っている。

「あら、なによこれ。高そうじゃない。……まぁ! ペンダントだわ!」

その中には懐中時計のようなペンダントが入っていた。
時計のような文字盤はなく、代わりに銀で出来た小物入れがついている。
そこには小さな宝石がたくさん散りばめられており、キラキラと七色の光を放っていた。

一目で高価な物だと分かる。
茜は自分の首にペンダントをあて、満足そうに微笑んだ。

「綺麗じゃない。あんたには勿体ないわ。私が貰ってあげる」
「だ、駄目ですっ!」

ひな乃の言葉に、茜も聞き耳を立てていた使用人たちも目を丸くした。
まさか反論するとは思わなかったのだ。

ひな乃自身もまた、自分から発せられた言葉に驚いた。

初めて反論の言葉を出したひな乃は、恐怖よりも送り主への礼節で頭がいっぱいだったのだ。

送り主は誰か分からない。
だけど私のために贈り物をしてくださる方がいるなら、失礼なことはしたくない。

誰かから物を貰うのは初めてだったひな乃。
送り主の気持ちを踏みにじりたくないという気持ちが、思いのほか大きかったのだ。


一方の茜は、ひな乃が言い間違えたのだと思っていた。
ところがひな乃が一向に発言を訂正しないため、目をつり上げた。

「はあ? あんた何言ってるの? 私に逆らう気?」
「ど、どなたかは存じませんが、私に贈ってくださったのです。その方の気持ちを踏みにじりたくないのです。どうかお返しください。どうか……」

よろよろと座り込んで額を地面につけるひな乃。
震える唇で「お願いします」と懇願した。

だが茜にとって、ひな乃の土下座には何の価値もない。

「馬鹿なこと言わないでちょうだい。あんたの物は私の物でもあるんだから」

そう言って、つまらなそうにペンダントの小物入れを開けた。

「あら? ふふふっ。なんて素敵な贈り物なの!」

その中身を見た茜は、ひどく口を歪ませて楽しそうに笑っている。
ひな乃が不安げに頭を上げると、茜は目を細めた。