月守家――。
それはひな乃の父の家系である。
「月守家は俺を崇める能力者の一族だ」
「え?」
「お前は知らなかっただろう。幼くして八久雲に拾われ、月守家との関係を絶っていたからな。八久雲は他の能力者の家系と昔から不仲なんだ。情報など渡らないだろう」
母だけでなく、父も能力者の家系だったとは思わなかった。
初めて聞く父方の話に、ひな乃は耳を傾けた。
柊の話によると、月守家は八久雲家よりも格上のようだった。
だから余計に目の敵にされていたのかもしれない。
「月守家は何代も当主を変えながら、長い間俺を崇めていた」
月守家の歴代当主は、月神と契約を交わしてきた。
月神は月守家に加護を、月守家は月神に信仰を――。
その証として互いの心臓の一部を交換する。
それが契約だった。
ところが新しく当主の座についた人物は、月神との契約を拒否したのだそう。
ならば心臓を返してもらうと柊が伝えると、彼らはそれを拒絶した。
「契約しなければ俺は月守家を加護出来ない。ところが長い歴史の中で、俺の心臓さえあれば加護が受けられると勘違いしたようだ。そして、月守家は加護を失った」
「そんなことが……」
ひな乃は呆然と呟いた。
自分の親族の話とは思えぬほど、遠い話だった。
「お前、月神が何の神格か知っているか?」
不意に質問されたひな乃。
「えっと、夜を司ると聞いています」
質問の意図が分からぬまま正直に答えると、柊が微笑んだ。
「そうだ。だがもう一つある。俺は人の世の『ツキ』、つまり運を司るんだ」
「それじゃあ月守家は……」
ひな乃が恐る恐る呟くと、柊が神妙な眼差しで頷いた。
月守家の人間は原因不明の病におかされ、子も成せなくなったそうだ。
一族は散り散りになり、ほとんどの者が命を落としたらしい。
生き残った者も姿をくらまし、どうなっているのか分からない。
「俺の加護で月守家はあらゆる災いから守られていた。契約が切れた時、その分の不幸が一気に訪れたのだろう」
柊はなんとも言えない表情をしていた。
悲しみのような、諦めのような、それでいて安堵しているような、不思議な表情だった。
それはひな乃の父の家系である。
「月守家は俺を崇める能力者の一族だ」
「え?」
「お前は知らなかっただろう。幼くして八久雲に拾われ、月守家との関係を絶っていたからな。八久雲は他の能力者の家系と昔から不仲なんだ。情報など渡らないだろう」
母だけでなく、父も能力者の家系だったとは思わなかった。
初めて聞く父方の話に、ひな乃は耳を傾けた。
柊の話によると、月守家は八久雲家よりも格上のようだった。
だから余計に目の敵にされていたのかもしれない。
「月守家は何代も当主を変えながら、長い間俺を崇めていた」
月守家の歴代当主は、月神と契約を交わしてきた。
月神は月守家に加護を、月守家は月神に信仰を――。
その証として互いの心臓の一部を交換する。
それが契約だった。
ところが新しく当主の座についた人物は、月神との契約を拒否したのだそう。
ならば心臓を返してもらうと柊が伝えると、彼らはそれを拒絶した。
「契約しなければ俺は月守家を加護出来ない。ところが長い歴史の中で、俺の心臓さえあれば加護が受けられると勘違いしたようだ。そして、月守家は加護を失った」
「そんなことが……」
ひな乃は呆然と呟いた。
自分の親族の話とは思えぬほど、遠い話だった。
「お前、月神が何の神格か知っているか?」
不意に質問されたひな乃。
「えっと、夜を司ると聞いています」
質問の意図が分からぬまま正直に答えると、柊が微笑んだ。
「そうだ。だがもう一つある。俺は人の世の『ツキ』、つまり運を司るんだ」
「それじゃあ月守家は……」
ひな乃が恐る恐る呟くと、柊が神妙な眼差しで頷いた。
月守家の人間は原因不明の病におかされ、子も成せなくなったそうだ。
一族は散り散りになり、ほとんどの者が命を落としたらしい。
生き残った者も姿をくらまし、どうなっているのか分からない。
「俺の加護で月守家はあらゆる災いから守られていた。契約が切れた時、その分の不幸が一気に訪れたのだろう」
柊はなんとも言えない表情をしていた。
悲しみのような、諦めのような、それでいて安堵しているような、不思議な表情だった。