ここに入ってから何日経ったのだろう。
食事や水を貰えない日もあり、ひな乃は日付の感覚がなくなっていた。
薄暗い座敷牢には時折当主がやってきて、ひな乃に鞭を打つ。
その回数すら、もう覚えてはいなかった。
――ああ、柊様。お礼を言えなかったのが心残りです。申し訳ありません。
ひな乃は心の中でただ柊への謝罪を繰り返す。
そんな時、誰かがやってくる音がした。
「よくこんな所にいられるわね。あーあ、着物が汚れてしまうわ」
「茜様……どうしてここに?」
「んー? あんたの姿を見に来たの。どんな惨めな姿をしてるのかしらって。予想通りね! ううん、それ以上だわ。ふふふっ」
茜はひな乃をじろじろと眺めると、満足そうに微笑んだ。
「お父様が直々に罰をお与えになってるんですもの。一度は見ておかないと。あんたはヤツガミ様を裏切って、月神なんかのもとにいた最低女の顔をね!」
ひな乃が黙っていると、茜は苛立ちのまま言葉を重ねた。
「月神も見る目がないわよねぇ。こんな女を連れて行くなんて。まあ、あんた達はお似合いだったわ。ほら、月神って名前のわりに何の力もないでしょう? 陰気臭いし、夜にしか活動できないって無能すぎるのよ。最近は罪人しか信者がいないって噂よ。お天道様の下を歩けない人が信仰するんですって! あはははは。もしかして月神もなにか罪を犯したのかしら? 」
「……柊様を悪く言うのは止めてください」
ひな乃は考える前に言葉が勝手に口から出ていた。
身体が熱くなり、手が震えだす。
ひな乃は初めての感情に身体を支配されていた。
怒りだ。
ひな乃は茜をまっすぐと見つめる。
「柊様は何も悪くありません。あのお方は私を助けてくれただけです!」
「はあ? あんたも母親と同じね。ヤツガミ様を裏切って、その上反省もしないんだから! 親子そろってロクデナシなのよ!」
「茜様のように他の神様の暴言を吐くのが正しいなら、私は間違いで良いです。裏切り者と呼ばれても構いません!」
はっきりと反論すると、座敷牢にシンとした静寂が訪れた。
茜はしばらくひな乃を睨みつけた後、顔を歪めた。
茜もこれまでに見たことがないほど怒りに震えている。
ガシャン――。
茜は閂を開けるとひな乃に近づいた。
「あんた、ちょっと見ない間に生意気になったのね。これも月神のせい? まだまだ罰が足りないみたいだから、私が罰してあげるっ!」
茜は思い切り振りかぶると、ひな乃の頬に強く振り下ろした。
バチンッ――。
渇いた音が座敷牢に響く。
それでもひな乃は茜から目を逸らさなかった。
「何度罰されても、私の考えは変わりません。私は、柊様が良い人だということを知っています。彼は毒ではなく温かい食事を与えてくださった。私は毒を与える神様より、柊様を信じます!」
ひな乃の言葉に茜の目つきが鋭くなる。
もう一度彼女が振りかぶるのが見えた。
あぁ、また叩かれる。
何度叩かれても構わないわ!
ひな乃は覚悟を決めて目を閉じた。
食事や水を貰えない日もあり、ひな乃は日付の感覚がなくなっていた。
薄暗い座敷牢には時折当主がやってきて、ひな乃に鞭を打つ。
その回数すら、もう覚えてはいなかった。
――ああ、柊様。お礼を言えなかったのが心残りです。申し訳ありません。
ひな乃は心の中でただ柊への謝罪を繰り返す。
そんな時、誰かがやってくる音がした。
「よくこんな所にいられるわね。あーあ、着物が汚れてしまうわ」
「茜様……どうしてここに?」
「んー? あんたの姿を見に来たの。どんな惨めな姿をしてるのかしらって。予想通りね! ううん、それ以上だわ。ふふふっ」
茜はひな乃をじろじろと眺めると、満足そうに微笑んだ。
「お父様が直々に罰をお与えになってるんですもの。一度は見ておかないと。あんたはヤツガミ様を裏切って、月神なんかのもとにいた最低女の顔をね!」
ひな乃が黙っていると、茜は苛立ちのまま言葉を重ねた。
「月神も見る目がないわよねぇ。こんな女を連れて行くなんて。まあ、あんた達はお似合いだったわ。ほら、月神って名前のわりに何の力もないでしょう? 陰気臭いし、夜にしか活動できないって無能すぎるのよ。最近は罪人しか信者がいないって噂よ。お天道様の下を歩けない人が信仰するんですって! あはははは。もしかして月神もなにか罪を犯したのかしら? 」
「……柊様を悪く言うのは止めてください」
ひな乃は考える前に言葉が勝手に口から出ていた。
身体が熱くなり、手が震えだす。
ひな乃は初めての感情に身体を支配されていた。
怒りだ。
ひな乃は茜をまっすぐと見つめる。
「柊様は何も悪くありません。あのお方は私を助けてくれただけです!」
「はあ? あんたも母親と同じね。ヤツガミ様を裏切って、その上反省もしないんだから! 親子そろってロクデナシなのよ!」
「茜様のように他の神様の暴言を吐くのが正しいなら、私は間違いで良いです。裏切り者と呼ばれても構いません!」
はっきりと反論すると、座敷牢にシンとした静寂が訪れた。
茜はしばらくひな乃を睨みつけた後、顔を歪めた。
茜もこれまでに見たことがないほど怒りに震えている。
ガシャン――。
茜は閂を開けるとひな乃に近づいた。
「あんた、ちょっと見ない間に生意気になったのね。これも月神のせい? まだまだ罰が足りないみたいだから、私が罰してあげるっ!」
茜は思い切り振りかぶると、ひな乃の頬に強く振り下ろした。
バチンッ――。
渇いた音が座敷牢に響く。
それでもひな乃は茜から目を逸らさなかった。
「何度罰されても、私の考えは変わりません。私は、柊様が良い人だということを知っています。彼は毒ではなく温かい食事を与えてくださった。私は毒を与える神様より、柊様を信じます!」
ひな乃の言葉に茜の目つきが鋭くなる。
もう一度彼女が振りかぶるのが見えた。
あぁ、また叩かれる。
何度叩かれても構わないわ!
ひな乃は覚悟を決めて目を閉じた。