八久雲家の屋敷に戻ってきたひな乃は、屋敷の奥まった場所にある座敷牢に入れられた。

「ほら入れ! 手間をかけさせやがって」

ひな乃を座敷牢に入れた男は、茜に仕えている者だ。
ひな乃の捜索に大層苦労したのだろう。憎々しげにひな乃を睨みつけている。

「もうすぐ当主様が来られる。大人しくしておけよ!」

ガシャンと重たい閂をかけられた。
男が去るとシンとした静けさが訪れる。

ひな乃は寒さで身を震わせた。
物置小屋よりも薄暗く、床から痺れるような冷たさが込み上げてくる。

手に息を吹きかけて暖をとるが、寒さはどうにもならなかった。
ひは乃は小さく縮こまると、柊のいた甘味処に思いを馳せる。

――柊様はもうお帰りになったかしら? ご無事かしら?

ヤツガミ様と争いにならないだろうか。それだけが心配だった。



「おぉ、ようやく毒巫女が戻ったか」

ふと声のする方をみると、当主が立っていた。
頬が痩せこけ、目だけがギョロギョロと飛び出ている。

こんなに恐ろしい顔だっただろうか。

ひな乃が顔を伏せると、ガシャンと閂が開く音がした。

当主が牢の中に入ってきたのだ。
近づいてくる当主の目はどこか遠くを見つめている。
まるで狂ってしまったかのようだ。

「ヤツガミ様! あぁ……ようやく毒巫女を見つけました。ご安心ください! 我々はきちんと罰を与えます。悪いのはこの者なのです!」
「ひっ…!」

ひな乃が恐ろしさのあまり声を発すると、当主はようやくひな乃を見た。

「ヤツガミ様はお前がいなくなってから、とても悲しんでおられた。だが生きていると知り、連れ戻すよう我々に命じたのだ。ヤツガミ様は、もうお前以外の毒巫女では満足されない! もはや毒巫女はお前しか務まらない。お前は一生ここで暮らすのだ!」

よく見ると、当主は手に何か棒のような物を持っている。

「どうか見ていてください! この者に罰を与える様子を!」

ひな乃は思わず後ずさる。
当主が持っていたのは太く硬そうな鞭だったのだ。

「ヤツガミ様以外は神に非ず! お前はヤツガミ様を裏切ったのだ! これはヤツガミ様からの慈悲である!」

当主が腕を振り上げるのが見えた。