翌日、ひな乃は柊が営む甘味処にいた。

『私に仕事をくれませんか?』

昨夜そうお願いしたひな乃は、甘味処の給仕の仕事を手に入れたのだ。


寝床と食事までもらったのに、寝てばかりはいられない。
何もせずに過ごすというのは、居心地が悪かった。 

だからどうしても働きたいと願い出たのだ。


――甘味処 月 

それは日暮れから夜更け頃までしか営業していない、とても不思議な店だった。

静かな夜にひっそりと灯りがともる店――月。
数席だけの小さな店内には、品の良い装飾が施されている。

席に着くと、不思議と安心感を覚える場所だった。


給仕の仕事もいっても客は来ず、ひな乃は仕方なく掃除をしていた。

「客が来ないときは座ってろ。掃除は開店前に済ませてある」
「では別の仕事をください」

ひな乃が間髪入れずにお願いすると、柊はため息をついた。

「お前な……。分かった、少し待っていろ」

柊は厨房へと入っていき、しばらくしてから何かを持って戻ってきた。

柊はひな乃を席につかせると、目の前に二つの皿を置いた。

「これは一体……何なのでしょうか」
「みつ豆と芋ようかんだ。食べて味の感想を。それが仕事だ」

みつまめ? いもようかん?
これが、甘味というもの?

ひな乃が甘味を見るのは初めてだった。
けれどもこれは仕事。
そう言われれば、食べて感想を述べなければならない。

先ほど「みつ豆」と呼ばれていた甘味を一口すくい、パクリと食べてみる。
途端に目を丸くするひな乃。

「甘い……! とても、美味しいです」
「そうか。それで?」
「え?」
「もっと詳しい感想は?」

柊の大真面目な顔を見て、ひな乃は必死に頭を働かせた。