「飯だ。食べろ。三日前から何も食べていないんだからな」

柊が持ってきたのは芋の入ったお粥だった。

柊の口ぶりからすると、死んだのは三日前のようだ。
三日間も食べていなければ、どうしようもなく腹が減る。

お粥の匂いが鼻をくすぐると、腹がぐうぅと音を立てた。
ひな乃は慌てて腹を押さえる。

目の前のお粥は、どう見ても出来立てだ。
ひな乃は内心戸惑っていた。

「あ、ありがとうございます。これを、食べていいのですか?」

お粥を指差し困惑のままに尋ねるひな乃。
柊は解せないといった表情で頷いた。

「そう言っているだろう?」
「でも……まだ温かいし、出来立てのようですよ。どなたかの食事とお間違いではないでしょうか」

使用人が出来立ての料理を食べるなど、あり得ないことだ。
お粥が乗ったお盆をそっと押し返すと、柊は不思議そうな顔をした。

「お前のために作ったのだから当然だろう? 何を言っているんだ? ほら食べろ。皿はその辺に置いておいておけ。後で取りにこよう」
「え……? あ、ありがとうございますっ!」

どうやら目の前のお粥は、本当にひな乃が食べてもいい物らしい。


柊が去った後、ひな乃はそっとお粥を一口食べた。

「……美味しい」

温かい食事を食べたのはいつぶりだろうか。
じんわりと身体が温かくなっていく。

「本当に生きてるんだ、私」

死んだはずだったのに、見知らぬ人の家でお粥を食べている。
この世に別れを告げたはずなのに――。


よく分からない状況なのに、ひな乃の心はだんだんと軽くなっていった。

一口、また一口……。

ゆっくりと味わって食べる。
食べることで、自分が生きていることを実感できた。




「まだ食べていたのか。すまない、来るのが早かった」

しばらくすると柊が戻ってきた。
ひな乃がまだ食器を持っているのに気づくと、彼は気まずそうに目線をそらす。

「今食べ終わりました。あの、とても美味しかったです。温かくて、優しい味で……。今まで食べた食事の中で一番美味しかったです!」

あまりの美味しさに、ひな乃は興奮気味に感謝を伝える。
柊は少し嬉しそうに口角を上げた。

「そうか」

盆をもって立ち去ろうとする柊。
ひな乃は思わず彼の着物の裾をそっと掴んだ。

「お待ちください! あの、お願いがあるのですが……」