「お前は生き返ったんだ。八久雲がお前を捨て、俺が拾った後にな。それだけのことだ」
「生き返った? そんなことが? ……なぜ私は生き返ったのでしょう?」

ひな乃の質問に柊は答えなかった。

懐から見覚えのあるペンダントを出し、ひな乃にかける。

あの猛毒が入っていたペンダントだった。
小物入れの部分には空のガラス瓶が入っている。

キラキラと輝くペンダントは、初めて見た時と変わらずとても綺麗だった。

ひな乃はペンダントを手に乗せてぼんやりと眺めた。

死んでしまえば良かったのに。
生き返ったって、仕方ないのに。

ひな乃の心は沈んでいった。
柊の言葉が本当なら、あの死の苦しみは無意味だったということなのだから。


「お前、この中身を飲んでしまったのだな」

その声は優しく、そして悲しそうだった。

「はい」

ひな乃の答えに、柊は力なく笑う。

「そうか。ならばここにいてもらう。逃げようとしないことだ」
「どうしてですか?」

柊はまたも答えなかった。

この人がペンダントの送り主なのだろうか。
どうにも毒を送ってくるようには見えない。

この人は一体何者なのだろう。

ひな乃がじっと見つめると、柊はふっと顔をそらした。
そして、「飯の支度をしてこよう。なにか食べろ」と言いながら立ち上がった。

ひな乃は混乱していたが、柊の悲しげな様子が気になった。

「あ、あの、旦那様」

ひな乃が思わず呼び止めると、柊はピタリと動きを止めた。

「柊でいい」

背を向けていて表情は見えなかったが、声は柔らかかった。

悪い人には思えない。
どんな理由であれ助けてくれた人だ。

ひな乃は正座して頭を下げた。

「柊様……拾ってくださってありがとうございます。私は捨てられ、貴方に拾われた身。どうか何でも命令してください」

ひな乃は柊に仕えるつもりで礼をした。


八久雲家に捨てられ、この人――柊様に拾われたのだ。
ならばこの身は柊様のもの。どんな命令でも聞きます。


それはひな乃の本心だった。

ひな乃自身、生き返ったらしいこの身を持て余している。
誰かに仕える生き方しか知らないひな乃は、こうする以外の方法を知らないのだ。

八久雲家より柊様の方がお優しい。
どうぞお使いください。

ひな乃はずっと頭を下げていたが、柊は黙っていた。
そっと頭を上げると、何やら柊は考え込んでいた。

「柊様……? 私、何か失礼をしてしまいましたか?」

おずおずと尋ねると、柊は微笑んで首をふった。
そしてひな乃の前に座り直し、ひな乃の頭をそっと撫でた。

「お前はこの屋敷にいれば良い。敷地内から出るときは俺が同行する。その他のことでお前を縛るつもりはない。あとは好きにしろ」

困ったように笑う柊。

「だが自由はないのかもな。お前は呪われてしまったんだ……俺にな。だからもう逃れられない。諦めてここで暮らしてくれ」

そう言って柊は再び立ち上がる。

柊が部屋から出ていくのを、ひな乃はじっと見つめていた。

どうして泣きそうな顔をしていたの?

柊がなぜそのような表情をするのか、ひな乃には分からなかった。