久しぶりに、夢を見た。前世の夢。ちいさい頃はよくこの夢を見て、ばれないようにひとり布団の中で泣いていたっけ。そんな夢を何度も見ていくうちに、私はこのことを償わなくてはならないと思い始めた。そうすれば、もうこんな悪夢を見ないで済むと、神様から許されると思ったのだ。
「六時…。」
久しぶりの悪夢と、幼少期の自分を傍観する夢を見て起きた。やはり、昨日「幸せ」なんてものを味わってしまったからだろうな。当たり前のことだ。
よく眠れなかったからなのか、体の気怠さを感じながら朝食に向かう支度をする。のそのそと着替えやそのほかの支度をしていればあっという間に七時前になり、食事処へ向かう。今日、この時間だけはしっかりやり遂げなくては。普通の、なにもおかしなところなど感じさせないようにしなければ。昨日の決意を改めて思いだしながら向かえば、旦那様の姿が見えた。
「旦那様、おはようございます。」
「…おはよう。昨日はすまなかったな。よく眠れたか…って、どうした、顔色があまり良くないぞ?」
「そうですか?少し、昨日の夜眠りが浅かったからでしょうか…。でも、心配は大丈夫です。体は元気ですので。」
そう言って、笑顔を見せた。その笑顔を見て、旦那様が悲しそうな顔を見せたのはきっと気のせいだろう。
昨日の夜とは違い、出来立ての温かいご飯を2人で頂く。やはり実家の味とは異なるが、ここのお料理もどれもとても美味しかった。
「文乃。今日の夜、話があるんだが部屋に行っても良いか。」
「話…ですか、分かりました。では、今晩お部屋でお待ちしていますね。」
「あぁ、ありがとう。頼むよ。」
朝は旦那様も時間があまりないため、会話も昨日に比べて少ない。でも、今の私にとってはちょうどよかった。ここで食べるご飯を美味しく旦那様と一緒に食べるのも、今日でもう終わりだから。
本当は、もうほんの少しだけこんな時間が長く続けばよいと思っていたのだけれど。自分で決めたことは、自分で守る。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。」
2人で食事を終え、旦那様はお仕事へ向かう準備をする。準備が終われば、旦那様を見送るのが私の役目だ。
「旦那様、いってらっしゃいませ。」
「それじゃあ行ってくる。文乃、今日は早く帰るとだけ伝えておくな。それじゃあ。」
こうして旦那様はお仕事へ向かった。残された私は、まだこの家に来て間もないためやることがない。ましてや家の勝手も分からないため、何か手伝うということもできない。だから、今日私がすることは、どうやって旦那様に嫌われるか考えること。確かに昨日、実家でやっていた通りに過ごすと決めたが、勘の鋭い旦那様ではきっとすぐに理由を聞きに来るだろう。もちろんそれに応じるつもりはないが、何度も必要に聞かれるとこちらもずっと黙っているのが苦しくなってしまうだろう。現に、昨日がそうだった。
旦那様に心配され、言葉を投げかけられても何も言わないままだんまりを突き通すのはなんだか胸が痛かった。そんなことで私のペースを乱されるのはごめんだ。だから、もっと確実な方法…。
そんなタイミングで、部屋の外から声が聞こえた。
「文乃様、昼食の時間です。」
すっかり時間と昼食のことを忘れていた。しかし、ずっと考え事にふけ、夜もあまり寝れていない私は食事という気分ではなかった。
「ごめんなさい、高野さん。あまり食欲がないから、今日の昼食は遠慮させていただきたいのだけれど…。」
「お体は大丈夫ですか?お薬などないか必要なものは…。」
「昨晩あまり眠れなかったんです。きっとそのせいなので、心配しないでください。寝たら良くなります。」
「そうですか…。わかりました、では昼食はお下げしておきますね。何か異変があればこの家のものにすぐおっしゃってくださいね!」
そう言って、壁越しの会話は終わった。顔が見えないだけで、こんなにも楽なのね…。改めて会話の難しさを実感し、再び作戦を考えることに集中する。
しかし、自室でずっとそのことを考えているとやはりとても疲れる。嫌われる方法なんて今まで真剣にやってきていないため分かるはずもない。一度休もう。そう思い、悪夢のせいで夜あまり眠れず眠たい目を擦った。ん…?悪夢…私の、前世…。
その時、気が付いた。なんだ、簡単に嫌われる方法があったではないか。このことを素直に伝えればいいんだ。こんなこと言いだすなんて、きっと旦那様でも驚かれるはずだ。そうして頭のおかしい嫁と分かればもう深く干渉してこないはず。これだ。これで完璧。やっと、償える。昔のことから解放されて、今世にはもう何も期待しない、この方法が成功すれば、私はやっとひとりになれる。罪滅ぼしのために生きることが出来る。
散々悩んできたことの悩みが終わり、安堵した。そうして、気が緩んだ拍子にまた睡魔が襲ってくる。でももう、寝てもいいよね…。あとはもう、旦那様の帰りを待つだけなのだから。
「六時…。」
久しぶりの悪夢と、幼少期の自分を傍観する夢を見て起きた。やはり、昨日「幸せ」なんてものを味わってしまったからだろうな。当たり前のことだ。
よく眠れなかったからなのか、体の気怠さを感じながら朝食に向かう支度をする。のそのそと着替えやそのほかの支度をしていればあっという間に七時前になり、食事処へ向かう。今日、この時間だけはしっかりやり遂げなくては。普通の、なにもおかしなところなど感じさせないようにしなければ。昨日の決意を改めて思いだしながら向かえば、旦那様の姿が見えた。
「旦那様、おはようございます。」
「…おはよう。昨日はすまなかったな。よく眠れたか…って、どうした、顔色があまり良くないぞ?」
「そうですか?少し、昨日の夜眠りが浅かったからでしょうか…。でも、心配は大丈夫です。体は元気ですので。」
そう言って、笑顔を見せた。その笑顔を見て、旦那様が悲しそうな顔を見せたのはきっと気のせいだろう。
昨日の夜とは違い、出来立ての温かいご飯を2人で頂く。やはり実家の味とは異なるが、ここのお料理もどれもとても美味しかった。
「文乃。今日の夜、話があるんだが部屋に行っても良いか。」
「話…ですか、分かりました。では、今晩お部屋でお待ちしていますね。」
「あぁ、ありがとう。頼むよ。」
朝は旦那様も時間があまりないため、会話も昨日に比べて少ない。でも、今の私にとってはちょうどよかった。ここで食べるご飯を美味しく旦那様と一緒に食べるのも、今日でもう終わりだから。
本当は、もうほんの少しだけこんな時間が長く続けばよいと思っていたのだけれど。自分で決めたことは、自分で守る。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。」
2人で食事を終え、旦那様はお仕事へ向かう準備をする。準備が終われば、旦那様を見送るのが私の役目だ。
「旦那様、いってらっしゃいませ。」
「それじゃあ行ってくる。文乃、今日は早く帰るとだけ伝えておくな。それじゃあ。」
こうして旦那様はお仕事へ向かった。残された私は、まだこの家に来て間もないためやることがない。ましてや家の勝手も分からないため、何か手伝うということもできない。だから、今日私がすることは、どうやって旦那様に嫌われるか考えること。確かに昨日、実家でやっていた通りに過ごすと決めたが、勘の鋭い旦那様ではきっとすぐに理由を聞きに来るだろう。もちろんそれに応じるつもりはないが、何度も必要に聞かれるとこちらもずっと黙っているのが苦しくなってしまうだろう。現に、昨日がそうだった。
旦那様に心配され、言葉を投げかけられても何も言わないままだんまりを突き通すのはなんだか胸が痛かった。そんなことで私のペースを乱されるのはごめんだ。だから、もっと確実な方法…。
そんなタイミングで、部屋の外から声が聞こえた。
「文乃様、昼食の時間です。」
すっかり時間と昼食のことを忘れていた。しかし、ずっと考え事にふけ、夜もあまり寝れていない私は食事という気分ではなかった。
「ごめんなさい、高野さん。あまり食欲がないから、今日の昼食は遠慮させていただきたいのだけれど…。」
「お体は大丈夫ですか?お薬などないか必要なものは…。」
「昨晩あまり眠れなかったんです。きっとそのせいなので、心配しないでください。寝たら良くなります。」
「そうですか…。わかりました、では昼食はお下げしておきますね。何か異変があればこの家のものにすぐおっしゃってくださいね!」
そう言って、壁越しの会話は終わった。顔が見えないだけで、こんなにも楽なのね…。改めて会話の難しさを実感し、再び作戦を考えることに集中する。
しかし、自室でずっとそのことを考えているとやはりとても疲れる。嫌われる方法なんて今まで真剣にやってきていないため分かるはずもない。一度休もう。そう思い、悪夢のせいで夜あまり眠れず眠たい目を擦った。ん…?悪夢…私の、前世…。
その時、気が付いた。なんだ、簡単に嫌われる方法があったではないか。このことを素直に伝えればいいんだ。こんなこと言いだすなんて、きっと旦那様でも驚かれるはずだ。そうして頭のおかしい嫁と分かればもう深く干渉してこないはず。これだ。これで完璧。やっと、償える。昔のことから解放されて、今世にはもう何も期待しない、この方法が成功すれば、私はやっとひとりになれる。罪滅ぼしのために生きることが出来る。
散々悩んできたことの悩みが終わり、安堵した。そうして、気が緩んだ拍子にまた睡魔が襲ってくる。でももう、寝てもいいよね…。あとはもう、旦那様の帰りを待つだけなのだから。



