はぁ、なんだかまた疲れてしまった…。最初は気を悪くさせないようにと考えて動いていたが、旦那様が想像よりも斜め上の行動に出るため、ただ会話をするだけでも普段していなかった私にしてみれば疲れてしまうのに、まさかの行動の連発で余計うまく会話することが出来ない。でも一つだけ、来て初日ながら分かったことがあった。
旦那様は、本気で私と婚約し、夫婦となることを望んでいる。楽しみになさっているということ。
最初からこんなにも思ってもらった行動をされると、いやでもわかってしまう。
嫌われるには、一体どうすれば良いのだろうか…。あの様子では、きっと滅多に怒ったりすることはないのだろう。食事に約一時間も遅れてしまうなんて、怒らせたり不機嫌な気持ちにさせてもおかしくないことなのに対し、旦那様はしたいからした。と言って笑っていたのだ。そんな人を怒らせるなんて、普段から人と接することを避けていた私にとっては難しいものだった。とてもじゃないが思いつかない。
「なにか、嫌われる方法…。」
そんなことをぶつくさとつぶやいていたら旦那様の声が聞こえた。
「文乃…?少し入るぞ。」
「は、はい!」
しまった、聞かれてしまっていたのだろうか…。そんな変な緊張感を持ちながら旦那様を部屋へ招き入れた。
「隣、座るぞ。…まず、今日一日疲れただろう。夕飯のことは本当になにも気にしなくていいからな。…それと、文乃。なにか私やこの家に対して不満はないか?」
旦那様は、顔色を一切変えずに私にそう聞いてきた。
どうしよう、旦那様が何を考えているのか分からない…。なんて答えるのが正解なの。とりあえず私の考えがばれないようにしないと。
「不満は、ないです。なにも。」
「不満は、ということは不満ではない何かがあるというのか?」
「い、いえ!他も何もありません。むしろ、とても良くして頂いていて申し訳ないくらいです。私にはもったいないくらい。」
「どうしてそう自分のことを下げて物を言うんだ。…その言葉の言い回しは、癖なのか?お前はあの両親にとても大切に育てられたと聞いている。口数は少ないが、良い娘だとも。…そんなお前が、自分のことを卑下したような言い回しをするのは一体なぜなんだ…。」
旦那様は、どこか心配そうな、不安そうな表情で私にそう聞いてきた。
私は、なにも言えなかった。自分を常に卑下したような言葉を使ってしまうのは、自分が幸せになってはいけないと思っているから。自分が前世悪名高い鬼だったから。だから今世は罪滅ぼしとして罰を受けなくてはならないから。そのすべて、私は旦那様に言えなかった。信じてもらえるわけないから。
そんなことを考えいれば、旦那様がまた口を開いた。
「…すまない。今日が初めて会って、過ごしただけなのにお前のことに関して踏み込み過ぎてしまった。常にどこか寂し気で何かを我慢しているような表情を見せていたからつい心配にになってしまって。」
「…いえ。私こそ、すみません。」
「長話をしてしまいすまなかったな。風呂が冷める。温かいうちにお前も入って今日はもう休め、きっと心も体も疲れているだろう。」
そう言って、旦那様は出ていった。
旦那様に、ばれていた。本当は、幸せになりたいと思っていること。でも、なってはいけないと自分の心に蓋をしていること。旦那様はその違和感に今日一日、ほんの少しの時間を共に過ごしただけで気づいたのだ。それはきっと旦那様自身が優しいからなのと、お仕事柄いろいろなお方と接することがあるからだろう。その両方が合わさって、私の異変に気付かれた。
「明日から、どんな顔で会えばいいんだろう。」
そんなことを考えながら、答えも出せずぼんやりとお風呂を済ませ、寝床に着いた。
とりあえず、明日は絶対に朝食に遅れない時間に起きなくては。そして、昨日のことはなかったようにすごせばいい。大丈夫。実家ではそうして口を閉じてなにも言わず、表情も閉ざして過ごしていたらみんなそっと私に干渉しなくなったのだから。少し強引かもしれないが、明日の朝食が終わった後から、今まで通りの生活をしよう。もう、周りに迷惑や心配はかけたくない。
今日一日だけでも、もう十分大切に扱ってもらった。これ以上は望んではならない。終わりにしよう。そう心に決め、眠りについたのだった。
旦那様は、本気で私と婚約し、夫婦となることを望んでいる。楽しみになさっているということ。
最初からこんなにも思ってもらった行動をされると、いやでもわかってしまう。
嫌われるには、一体どうすれば良いのだろうか…。あの様子では、きっと滅多に怒ったりすることはないのだろう。食事に約一時間も遅れてしまうなんて、怒らせたり不機嫌な気持ちにさせてもおかしくないことなのに対し、旦那様はしたいからした。と言って笑っていたのだ。そんな人を怒らせるなんて、普段から人と接することを避けていた私にとっては難しいものだった。とてもじゃないが思いつかない。
「なにか、嫌われる方法…。」
そんなことをぶつくさとつぶやいていたら旦那様の声が聞こえた。
「文乃…?少し入るぞ。」
「は、はい!」
しまった、聞かれてしまっていたのだろうか…。そんな変な緊張感を持ちながら旦那様を部屋へ招き入れた。
「隣、座るぞ。…まず、今日一日疲れただろう。夕飯のことは本当になにも気にしなくていいからな。…それと、文乃。なにか私やこの家に対して不満はないか?」
旦那様は、顔色を一切変えずに私にそう聞いてきた。
どうしよう、旦那様が何を考えているのか分からない…。なんて答えるのが正解なの。とりあえず私の考えがばれないようにしないと。
「不満は、ないです。なにも。」
「不満は、ということは不満ではない何かがあるというのか?」
「い、いえ!他も何もありません。むしろ、とても良くして頂いていて申し訳ないくらいです。私にはもったいないくらい。」
「どうしてそう自分のことを下げて物を言うんだ。…その言葉の言い回しは、癖なのか?お前はあの両親にとても大切に育てられたと聞いている。口数は少ないが、良い娘だとも。…そんなお前が、自分のことを卑下したような言い回しをするのは一体なぜなんだ…。」
旦那様は、どこか心配そうな、不安そうな表情で私にそう聞いてきた。
私は、なにも言えなかった。自分を常に卑下したような言葉を使ってしまうのは、自分が幸せになってはいけないと思っているから。自分が前世悪名高い鬼だったから。だから今世は罪滅ぼしとして罰を受けなくてはならないから。そのすべて、私は旦那様に言えなかった。信じてもらえるわけないから。
そんなことを考えいれば、旦那様がまた口を開いた。
「…すまない。今日が初めて会って、過ごしただけなのにお前のことに関して踏み込み過ぎてしまった。常にどこか寂し気で何かを我慢しているような表情を見せていたからつい心配にになってしまって。」
「…いえ。私こそ、すみません。」
「長話をしてしまいすまなかったな。風呂が冷める。温かいうちにお前も入って今日はもう休め、きっと心も体も疲れているだろう。」
そう言って、旦那様は出ていった。
旦那様に、ばれていた。本当は、幸せになりたいと思っていること。でも、なってはいけないと自分の心に蓋をしていること。旦那様はその違和感に今日一日、ほんの少しの時間を共に過ごしただけで気づいたのだ。それはきっと旦那様自身が優しいからなのと、お仕事柄いろいろなお方と接することがあるからだろう。その両方が合わさって、私の異変に気付かれた。
「明日から、どんな顔で会えばいいんだろう。」
そんなことを考えながら、答えも出せずぼんやりとお風呂を済ませ、寝床に着いた。
とりあえず、明日は絶対に朝食に遅れない時間に起きなくては。そして、昨日のことはなかったようにすごせばいい。大丈夫。実家ではそうして口を閉じてなにも言わず、表情も閉ざして過ごしていたらみんなそっと私に干渉しなくなったのだから。少し強引かもしれないが、明日の朝食が終わった後から、今まで通りの生活をしよう。もう、周りに迷惑や心配はかけたくない。
今日一日だけでも、もう十分大切に扱ってもらった。これ以上は望んではならない。終わりにしよう。そう心に決め、眠りについたのだった。