それはとても一人用とは思えないほどに立派なお部屋だった。
「あの、こんな大きなお部屋を私一人で使ってよろしいのですか…?」
一ノ瀬家で使っていた自室もそれなりに広かったが、今回用意されたお部屋はそれを上回るものだった。おうち自体が実家よりも随分と立派なお屋敷のため、部屋のひとつひとつが大きいのは当たり前だ。しかし、私の部屋までこんなに立派なものを用意されるとは。
「もちろんでございます。何しろ、文乃様は春明様の奥様となられるお方なのですから。このぐらいの部屋でなければと、春明様ご自身がが日当りも良く屋敷の中でも広いお部屋をご用意されていましたので。初めてのささやかな贈り物だと思い、どうかお使いくださいませ。」
「ささやか…。あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて使わせて頂きます。荷物はそこにおいていただければ結構ですので。ありがとうございます。」
こうして、決してささやかなどではない贈り物を初日からもらい、私の新しい生活が幕を開けた。
旦那様がわざわざお部屋を選んでくださっていたなんて…。正直びっくりした。まだ会ったこともないような私を思い部屋をくださるとは。春明様は本当に噂通りの良いお人なのだろう。
「本当、私にはもったいない…。」
ひとりになり、心の声が漏れる。流石に慣れていない会話をするのに神経を使った。ましてや知らないところ、初めての方たちの前で。こんなことになるのであったら最低限ではなく、せめてもっと屋敷の従者たちと会話をしておけば良かった。私の人生計画がこんな形で厄介なことになるとは思いもしなかった。
「ここではせめて、旦那様と高野さんの前ではきちんと会話をしなくては…。元気とまではいかなくとも、せめて最初は普通を演じないと失礼よね。時間が経つにつれて、少しずつ会話を減らしていって嫌われていくのがきっと一番いいわ。」
ここにきて一番初めに考えることはそれだった。いかに旦那様や屋敷の方々に嫌われることが出来るのか。そうしなければここに来た意味がない。私は不幸になるためにここに来たのだ。こんな上等な部屋などふさわしくない。時間が経った後で旦那様にもお部屋をもっと地味にしてもらえるように頼まなくては。
「ここに来た理由を忘れてはだめよ、私。」
自分がなぜ嫁ぐことを選んだのか。ここでするべきことは何なのか。それを改めて頭に刻み自分に言い聞かせながら言葉に出す。言葉に出した方が、きっとうまくいく気がしたから。
休憩と同時に自分の心に整理を付け終わったら、今度は持ってきた荷物をすべてほどかなければならない。挨拶をして終わりなわけがない。ここからは少しの肉体労働だ。お父様とお母様が持たせてくれた大量の荷物。持ちきれないものは要らないと何度も言って断って来たものの、量が多いことには変わりない。
まずは服から…。両親が持たせてくれた衣類は着物はもちろん、都会で流行っている洋物の服もあった。両方タンスの中に綺麗にしまうだけでも一苦労だ。両親が最後に選んで持たせてくれた服たちだ。せめて大切に扱わないと罰が当たりそうで丁寧に扱う。
「本当、恵まれている…。」
なぜこんな家に生まれてきてしまったのだろうと後悔のような悔しさを味わう。私は幸福など望んでなんかいないのに。なぜ私はこんなにも…。
そのあとの言葉は急いで飲みこんだ。そうでないと、今までしてきたことがすべて無駄になる様な気がした。
きっと、慣れないことの連続で疲れているんだ。だから変な思考にとらわれてしまう。今日は一旦夕食まで休もう。しばらく休んだらこの胸のざわつきもなくなるだろう。そう思い、窓辺に座りそっと寄りかかる。深呼吸を繰り返していれば、少しずつ意識が遠くへ行き気が付けば眠ってしまった。
「あの、こんな大きなお部屋を私一人で使ってよろしいのですか…?」
一ノ瀬家で使っていた自室もそれなりに広かったが、今回用意されたお部屋はそれを上回るものだった。おうち自体が実家よりも随分と立派なお屋敷のため、部屋のひとつひとつが大きいのは当たり前だ。しかし、私の部屋までこんなに立派なものを用意されるとは。
「もちろんでございます。何しろ、文乃様は春明様の奥様となられるお方なのですから。このぐらいの部屋でなければと、春明様ご自身がが日当りも良く屋敷の中でも広いお部屋をご用意されていましたので。初めてのささやかな贈り物だと思い、どうかお使いくださいませ。」
「ささやか…。あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて使わせて頂きます。荷物はそこにおいていただければ結構ですので。ありがとうございます。」
こうして、決してささやかなどではない贈り物を初日からもらい、私の新しい生活が幕を開けた。
旦那様がわざわざお部屋を選んでくださっていたなんて…。正直びっくりした。まだ会ったこともないような私を思い部屋をくださるとは。春明様は本当に噂通りの良いお人なのだろう。
「本当、私にはもったいない…。」
ひとりになり、心の声が漏れる。流石に慣れていない会話をするのに神経を使った。ましてや知らないところ、初めての方たちの前で。こんなことになるのであったら最低限ではなく、せめてもっと屋敷の従者たちと会話をしておけば良かった。私の人生計画がこんな形で厄介なことになるとは思いもしなかった。
「ここではせめて、旦那様と高野さんの前ではきちんと会話をしなくては…。元気とまではいかなくとも、せめて最初は普通を演じないと失礼よね。時間が経つにつれて、少しずつ会話を減らしていって嫌われていくのがきっと一番いいわ。」
ここにきて一番初めに考えることはそれだった。いかに旦那様や屋敷の方々に嫌われることが出来るのか。そうしなければここに来た意味がない。私は不幸になるためにここに来たのだ。こんな上等な部屋などふさわしくない。時間が経った後で旦那様にもお部屋をもっと地味にしてもらえるように頼まなくては。
「ここに来た理由を忘れてはだめよ、私。」
自分がなぜ嫁ぐことを選んだのか。ここでするべきことは何なのか。それを改めて頭に刻み自分に言い聞かせながら言葉に出す。言葉に出した方が、きっとうまくいく気がしたから。
休憩と同時に自分の心に整理を付け終わったら、今度は持ってきた荷物をすべてほどかなければならない。挨拶をして終わりなわけがない。ここからは少しの肉体労働だ。お父様とお母様が持たせてくれた大量の荷物。持ちきれないものは要らないと何度も言って断って来たものの、量が多いことには変わりない。
まずは服から…。両親が持たせてくれた衣類は着物はもちろん、都会で流行っている洋物の服もあった。両方タンスの中に綺麗にしまうだけでも一苦労だ。両親が最後に選んで持たせてくれた服たちだ。せめて大切に扱わないと罰が当たりそうで丁寧に扱う。
「本当、恵まれている…。」
なぜこんな家に生まれてきてしまったのだろうと後悔のような悔しさを味わう。私は幸福など望んでなんかいないのに。なぜ私はこんなにも…。
そのあとの言葉は急いで飲みこんだ。そうでないと、今までしてきたことがすべて無駄になる様な気がした。
きっと、慣れないことの連続で疲れているんだ。だから変な思考にとらわれてしまう。今日は一旦夕食まで休もう。しばらく休んだらこの胸のざわつきもなくなるだろう。そう思い、窓辺に座りそっと寄りかかる。深呼吸を繰り返していれば、少しずつ意識が遠くへ行き気が付けば眠ってしまった。