そんな私も、もう今年で18になる。18となれば自然と婚姻の話も出てきて良い頃合いだが、正直な話そんなものはしたくない。しない、なんて選択肢はないが、それでもしたくないと願ってしまう。もしするのであれば、婚約者など眼中にも入れず、冷たく私を愛さない人が良い。世間では評判が悪いような、そんな人。

でも父と母がそんな人を連れてくるとは思えない。関心が無くなったとはいえ、嫌われているわけではない。食事もきちんと与えてもらい、服も妹と比較されないような上等な着物。こんなに愛想がない娘だというのに、沢山の愛情を無視してきたような酷い娘なのに。
父と母は、常に私のことを気にかけてくれた。そこに言葉はないけれど。

そんな何不自由なく、私一人だけの空間で息をしているような環境が壊される日が来てしまった。

そう、それは結婚の申し込みだった。
相手は軍人様。巷での評判も良く仕事もでき愛想も良いとても素晴らしい人らしい。でも、私はそんな人望んでいない。もっと冷酷な方と結婚したかった。今の何不自由なく暮らせている現状から真っ逆さまに落ち、前世の過ちを償えるようなそんな生活を望んでいたのに。
でも、断れない。だって、お父様もお母様もすごく嬉しそうにこの縁談を持ってきてくれたから。私は別に両親を不幸にしたくて今までこんな不愛想に生活していたわけじゃない。自分へ罰を与えたかっただけ。そのためにしてきたことによって、両親には何度も暗い顔をさせてしまった。
だから最後ぐらい、この家を出る前に最後ぐらいお父様とお母様の喜んだ顔が見たかった。喜ばせて、あげたかった。だから私は縁談の申し込みを承諾した。

「本当に良い方が見つかってよかったわ。これで文乃も安心ね。我が家からいなくなってしまうのも寂しいけれど…。」

「お母様、そんな泣きそうなお顔をしないで?私なら大丈夫。旦那様になるお方も良い方なのですから、安心してください。」

「そうだぞ、千代子。文乃ももう18になった。もう立派な淑女だ。結婚して嫁に行ってもきっと素晴らしい嫁になるはずだ。なにせ、私とお前の子のだから。」

「お父様…。」

そういって母に語り掛ける父も涙ぐんでいた。私が素晴らしい殿方のところへ嫁ぐだけでこんなにも嬉しく思い涙を流してくれるなんて。本当に、良い父と母をもって生まれてしまった。
こんな私には似合わない家、少しでも早く出て、良い人と噂の軍人様のところへ行った方が良いのかもしれない。もしかしたら、嫁いできた妻に対しては冷たい人かもしれないのだから。そんな少しの可能性にかけてみる方が良いのかもしれないと思った。