私の父と母は、優秀な人だった。社交的で容姿も良く、よくパーティーなんかでは良い意味で目立っていた。
それに比べて私は社交的ではなく、内気で口数も少ない。父と母のどこをくみ取ればこんな人間が生まれるのだろうと思う程に似ても似つかないような性格をしていた。
そんな性格になってしまった原因は自分が一番わかっている。いや、私しか知らない秘密がある。
私には、前世の記憶があるのだ。

私は前世、悪名高い鬼として生き、多くの人間を食らった。そうして何百年もの年月を生きた私は、人間の手によって始末された。

そんな私が今世で良い人生を送っていいわけがない。だから私は、優秀な父と母のもとに生まれたことを憎んだ。こんなに恵まれている環境では前世の罪滅ぼしなどできないではないかと。

でも、父と母の愛情は私が成長するにつれて薄れていった。正確には関心ごと薄れてほとんど消えてしまった。あんなに良い父と母なのになぜかって？それは、私があまりに不愛想で愛嬌もない無口な子供だったからだ。

でもそれは私の策略だった。
きっと前世の記憶がない私だったら、父や母に似て社交的で笑顔がまぶしい無邪気な子供だっただろう。さぞ周りから愛される子供に育っただろう。しかし私は、前世の償いをするために生まれてきてしまった。だからわざと不愛想で愛想のない子供の振りをして、父と母を悲しませた。期待を、裏切った。
最初は2人とも私が喜ぶであろうことを沢山してくれた。流行りの服や遊び道具。いろいろな場所にも連れて行ってもらった。観光地や巷で人気の場所。穏やかな風景の場所…。しかし、そのどれも私の表情を明るく花咲かせるものではなかった。本当の笑顔を隠して。

本当は凄く嬉しかった。両親が私の笑顔や喜ぶ姿を見たいがためにここまでしてくれることが。でも、私には幸せなんてもの許されない。だから私にしてくれた様々なことすべてが嬉しかったが、絶対に感情には出さなかった。出してしまったら、お父様とお母様が喜んでしまったら、私は幸せになってしまうから。

だから、大好きなお父様とお母様にならないうちに、心を閉ざした。口数は出来るだけ少なく。極力感情を表には出さない。
これを徹底して行った。
そうして生活しているうちに、父と母は私が物静かで表情が乏しい子だと悟ったのか段々と私を喜ばせることへの執着が消えていった。