⚪︎取材音声文字起こし①
取材日 :2024年11月17日(日曜日)
取材時間:12:00 〜 14:00(2時間)
取材場所:県内にある某カフェ
参加者:私(取材者)、満谷先輩
取材テーマ:千咲先輩が逮捕された件について
闇バイトの噂について
注意点
※1:参加者の名前部分については、ペンネームおよび仮名で表記する。
※2:個人の特定に関する部分等は、略表記あるいは●●表記で記載する。
以下、本文
私:えー、じゃあ取材を始めますね。満谷先輩、今日はありがとうございます。
満:いやいや全然大丈夫よー。それにしても矢田川くんが小説書いてるなんてね。最初聞いた時はすげえびっくりしたよ。
私:はは、まだまだアマチュアで書籍化もできてませんが。
満:とかなんとか言ってー。そのためにコンテストに応募してるんでしょ。俺も今回に限らずいろいろ協力するからさ。なんでも言ってよ。それに、今回の取材内容を公開することで千咲の助けにもなれたらって思うからさ。逮捕されただけで実は無実だったなんてこともあるんだって、ひとりでも多くの人に知ってほしいし。だからまあ、遠慮なくなんでも訊いて。
私:ありがとうございます。そう言ってもらえると大変助かります。それでは早速なんですが、千咲先輩が今どうされているかはご存知ですか。これについては取材云々を除いて本気で気になっているところですが。
満:ああ、そうだよね。千咲のことについては良くも悪くもほとんどニュースとかにならなかったし、知らないのも無理ないと思うよ。まず、千咲とは最近は俺も会ってない。何年前だったかな、ああ、そう6年前か。6年前に千咲が突然逮捕された時は本当にびっくりした。あの時の驚きは人生でも一番で、まだ更新されてないよ。そのあと2、3年くらいは時々会ったりしてたんだけど、俺が関東の●●に就職してからは会ってないんだ。だから、現在どこでなにをしているかはわからないんだ。
私:そっか、そうなんですね。ちなみに、DMでやり取りさせていただいた時にチラッと教えていただきましたが、千咲先輩はやはり無実だったんですね。
満:うん、無実だ。千咲は闇バイトなんかやっていないし、本人もずっと闇バイトなんて申し込んだ覚えもやった覚えもないって警察に訴えたそうなんだ。まあ、ほとんど聞き入れてもらえなかったみたいなんだけどね。ほんとあいつらは頭でっかちで嫌になるよ。そう思わないか。
私:はは、そ、そうですね。
満:まあ、それはそれとして。あの時警察は、千咲が闇バイトを友達に勧誘していた音声データと、逮捕した時に千咲が運んでいたダンボールに麻薬が入っていたことを主な証拠として検察に提出し、送検したんだ。この二つから千咲は闇バイトに関わっていて、千咲自身も手を染めていたことがわかるだろう、ってね。
私:なるほど。
満:でも、千咲は結局不起訴になった。嫌疑不十分だったらしい。って、ああ、そうだ。嫌疑不十分で不起訴っていうのは、犯罪を犯したと断定するには証拠が不十分だから起訴しない、つまり訴えを起こして刑事裁判にはしないって意味ね。
私:はい。有罪になるよりはいいと思いますが、でもなんだかやり切れないですね。
満:それは千咲も言ってたよ。起訴されないイコール「あなたは無実です」ってわけではないからね。疑わしきは罰せず。やったかもしれないけど、絶対にそうだとは言えないからやめておく。つまり、白黒はっきりさせないわけだからね。まあそれでも、刑事裁判にまでされてしまうとほぼ有罪になるから、やっぱり起訴はされなくて良かったと俺は思うけどね。
私:まあ、それはそうですね。じゃあ、千咲先輩は不起訴になった後は大学に戻ったんですか。
満:いや、千咲は休学したよ。1、2年くらいかな。逮捕されたというのが友達を含めて大学に広まってしまったし、そんな中でキャンパスライフなんて送れないって言ってね。まあ、気持ちはわかるよ。逮捕された事実だけで周りは勝手に犯罪を犯した黒だって視線で見てくるだろうし、そんな中戻っていじめとかされたら最悪だし。
私:確かに、そうですね。
満:さっきも少し言ったけど、一応、休学中は時々会ってたんだ。こうしてカフェとかで話してね。やっぱり千咲、かなり精神的にやられてた。すげえ痩せたし、あんまり眠れてないみたいだったな。最後に会った時も、『人生狂わされた、最悪』って、それは酷い顔で言ってたよ。ほんと、罪をかぶせたやつは許せないな。
(ここで頼んでいた料理が運ばれてきたため、取材は一時中断。歓談略。)
私:それじゃあ食べ終わったところで、すみませんがもう少し話を聞かせてください。
満:うんうん、いいよ。なんでも訊いて。
私:満谷先輩の話を聞いていていくつか思ったことがありまして。まず、千咲先輩がもし無実だとするなら、どうして友達を誘うような音声データがあって、麻薬の入ったダンボールを運んでいたんでしょうか。
満:ああ、当然の疑問だよね。まあ、きっと誰かにはめられたんだと思う。音声データは千咲のとある知人から提出されたものらしいし。
私:とある知人、ですか。
満:本人が名前や関係性は出さないでくれって言ったらしいよ。逆恨みをされるのが怖いって思ったんだろうね。俺もその音声データは聞きたかったんだけど、裁判にはなってないから聞けなくてさ。一応千咲からは、二人の女の声が入ってたって聞いたな。
私:二人の女の声。ひとつは千咲先輩として、もうひとつがその知人ですか。
満:いや、知人の友達とかの可能性もあるから、そうとは限らないんじゃないかな。警察も、千咲が「友達」に勧誘していたって言ってたし、多分千咲の友達が人伝いに頼んで警察に提出したんじゃない。
私:なるほど。
満:まあ、そのもうひとつの女性の声については千咲自身も知らなかったらしいんだけどね。
私:え。千咲先輩が勧誘したってことになっているのに、千咲先輩が知らない人の声が入ってたってことですか。
満:不思議な話だよね。なんか声自体はかなり綺麗で、一度聞いたら必ず覚えてるってくらい印象的な声だったって言ってたな。捏造した可能性大じゃん、そんなの。誰だよそいつっていう。まあ、警察は千咲がしらばっくれてるって思ってるんだろうけどな。まったく。んで千咲曰く、その音声の中でもそいつは千咲の友達を名乗っていたらしい。
私:名乗っていた、というのは。
満:たぶん、「私は友達だけどその誘いには乗れない」とか、「むしろ友達として言うけど、そんなバイト辞めなよ」みたいな内容だったんじゃない。
私:ああ、なるほど。でも千咲先輩は、その内容に身に覚えがないんですよね。
満:そうそう。なんか千咲は、「私が友達から変なバイトに誘われたくらいなのに、私が同じようなことをするはずないじゃない!」って怒りまくってたな。
私:まあそうなりますよね。先輩が誘うんじゃなくて誘われてたって話は私も以前聞きましたね。
満:え、矢田川くんも?
私:はい。なんか、千咲先輩の友達に割のいい稼げるバイトがあるって、怪しげなアプリを見せてきてしつこく勧誘されたって。満谷先輩は聞いてません?
満:ああ、どうだったかな。そういえば、なんか聞いたかも。そうか、千咲が言ってたのはその話だったのか。
私:多分、そうじゃないかと。でも、千咲先輩の言う通りですよね。そんな誘いがあれば誰だって警戒するようになるし、自分から調べたり、ましてや応募なんて。
満:それは確かにそうだな。実はお金に苦心してたとか、腹の底では稼げる働き口を探してたけどその時は怪しくてやめた、みたいなのがなければな。
私:まあそうですね。
満:ああそれと、麻薬の入ったダンボールについてだけど、そのダンボールにはバイト先の食材とか備品とかが入ってたらしいよ。
私:食材に、備品?
満:っと、ごめん。その前に逮捕された時の状況言わないとだよね。なんか、千咲はその日バイトを終えて閉店作業をしてたらしいのよ。そしてよくあるじゃない、食材が余ったとか、備品のストックが多いから足りない店舗に回そうみたいなの。
私:ああ、ありますね。
満:まさに千咲のバイト先もそんな感じで、千咲は閉店作業を終わらせた後に余った食材とかを24時間営業してる別の忙しい店舗に持っていくことにしたらしいよ。
私:ああ、それでその道中に捕まったと。
満:そうそう。バイト自体は一応終わってるから、私服でダンボール抱えて移動してたらしくて。巡回してた警察官のひとりに職質されたっぽいね。闇バイトでの配達依頼中とか思われたんじゃない。
私:災難ですね。
満:それで、結構念入りに見られたみたい。ダンボールにはなんだったかな。ちょっと待ってね。俺も気になって千咲にその辺訊きに行ってメモッたんだけど。
(鞄からメモ帳を探す音。)
満:ああ、あったあった。えーっと、ダンボールの中身は、余った生地や卵、野菜のほかにいくつかの調味料と、クリーニング済みの包装がされた制服に、新品の文房具が数個、だったみたい。どれも千咲が自分で判断して入れたものだったって。
私:自分で判断して、つまりは誰かからお願いとかされたわけじゃないんですね。
満:うん、そうらしいよ。
私:でもそれって、闇バイトっていうよりはそのお店自体があやしい気がしますが。
満:警察も最初はその路線で捜査したみたいね。千咲のバイト先の店舗にガサ入れをしたって。でも結局見つかったのは千咲が運んでいたものだけ。クリーニングされた制服を運んだ業者とか、クリーニングをした業者、さらには本社や他の店舗まで調べたけど何も出てこなかったから、一気に千咲への嫌疑が高まったって聞いたな。
私:なるほど。それで、麻薬をこっそりバイト先の備品に紛れ込ませて運んだって思われたんですね。
満:そうそうそう。ちなみに麻薬については、クリーニングされた制服のポケットの裏地から出てきたみたいだけどね。
私:裏地から。よく見つけましたね、その警察官。
満:まあ、麻薬がある場所の定番だからね。服の裏地とか、靴の底とか。推理小説でもそういうのない?
私:ありますけど。ただそれは、麻薬があることを知っていた前提だから調べるというか。普通の職質でもそこまで調べるんですかね。
満:ま、まあ、闇バイトって最近多くなってるし、昔もそれなりにあったって聞くから、職質でもそういうところに気をつけて調べるように言われてたんじゃないかな。
私:へえ、そうなんですね。いや、私もミステリーはほとんど書かないので、そこまで詳しくはないんですけど。
満:俺も似たようなもんよ。まあ、そんな感じで千咲は捕まったけど、俺的には千咲はやってないって思うんだよね。証拠はともかく、動機的には不十分というか。
私:そうですね。んー。まあ、そうか。いやでも、どうなんだろ。
満:どうした? またなにか気になる部分でもあった?
私:えーと、まあそうなんですけど。えっと、もし千咲先輩が無実だとするなら、最初の音声データはきっと加工されたものですよね。かなり綺麗な声だったなら、それこそAIで生成した歌用の声とか。
満:うん、そうだね。
私:もしそうだとするなら、そんな準備をしているってことは、犯人は千咲先輩を前もってはめようとしていたことになります。つまりは、計画的に進められていたものなんですよね。
満:うん、ほう、なるほどなるほど。それで?
私:でもそうなると、麻薬の一件って変なんですよね。ほかの店舗に持っていくダンボールの中に何を入れるか決めたのは千咲先輩自身です。生地や卵、野菜といった食材なら移動させることも見当がつくと思うのですが、クリーニングされた制服なんかは前もって頼まれでもしない限り持っていくとは考えにくいじゃないですか。
満:うん、確かにね。
私:陥れるってことだけ考えたら、あまりにも不確実な形で逮捕されたというか。なんか引っかかるんですよね。そこで発見されたことそれ自体も、計画的なものじゃないと意味が。
満:なるほど、確かに、そうなるね。もしかしたら、麻薬の一件と音声データの件は、別物かもしれないね。
私:別物、というのは?
満:んーなんていうか、これもあくまで想像に過ぎないんだけど。たまたま誰かが闇バイト関連で千咲を貶めようとしていた矢先に、たまたま陰で動いていた別件の麻薬事件に巻き込まれた、みたいな。
私:ということは、警察が調べて出てこなかったけど、千咲先輩のバイト先では麻薬の取引が横行していたってことですか。
満:あくまでも推測よ、推測。その可能性もあるってだけで。
私:まあ、なるほど。クリーニングされた制服の裏地で取引って危険すぎる気もしますけど。
満:博打的ではあるかもね。見つかるかもしれないし。
私:そうなんですよね。というか、警察が調べて他の麻薬が出てこなかったってことは、麻薬取引をしていた人たちは相当手慣れてるか、警戒心が強いってことになりますよね。そんな人たちが、クリーニングされた制服の裏地で
満:まあ、ほんとに想像よ、想像。ちょっと複雑に考えすぎかも。
私:複雑に、ですか。
満:うん。単純に考えてみたらどうかな。
私:それだと警察と同じ結論になっちゃいますよ。千咲先輩が闇バイトしてて紛れ込ませて運んだって。
満:ああ、そっか。難しいな。
私:んー、わかんないですね。なんか、いまいちすっきりしないです。
満:まあ警察が下した判断に逆らおうとしてるからね。それは仕方ないかも。そうだ、気分転換に甘いものでも頼まない?
(追加注文、トイレ等のため、取材は一時中断。歓談略。)
私:でも確かに、警察と違った結論を導き出そうとしてるくらいだから難しいですよね。ただそれなら、なんで検察は起訴しなかったんですかね。
満:んーそこもはっきりしないんだよなあ。ああ、そうだ。そういえば千咲の不起訴が決定したのは、べつの闇バイトに関わってた人が逮捕された直後だったな。
私:え、そうなんですか。そんなタイミングでまた闇バイトの事件が。
満:しかもそいつ、千咲が言うには以前怪しいバイトを紹介してきた女友達だったらしくてさ。
私:え。それほんとですか。
満:らしいのよ。矢田川くんがさっき言ってた、千咲から聞いたって話のことだと思うけど。
私:もしそうなら、それかなり匂いますね。なんか関係がありそうな。
満:俺もそう思うんだけど、なにぶん千咲が今はどこでなにしてるかわかんないからな。これ以上調べようがないっていうか。
私:まあ、そうですね。
(追加注文したものが運ばれてきたため、取材は一時中断。歓談略。)
満:そうそう。それと矢田川くんがDMでも言ってた例の噂のことだけど。
私:ああ、はい。
満:闇バイトに誘われた人が、どんなに警戒していてもいつの間にか闇バイトをしていて、誘った人は行方知らずになる、だっけ。一応俺の方でも友達とか大学時代の先輩後輩とかにも訊いて調べてみたけど、出所っぽいのはわかんなかったよ。役に立たなくて申し訳ないけど、一応報告だけ。
私、いえ、そんな、とんでもないです。調べてくださってありがとうございます。
満:まあ闇バイトって、ほんとにいろんな人が関わる危険があるらしいからね。特に注意しないといけないのは、お金に困ってる人。これは完全に俺の予想だけど、おおかた闇バイトに引きずり込まれて、引きずり込んだ側が逃げた直後に警察に摘発されたとか、そんなところが噂の発端じゃないかな。あと噂にある「いつの間にか闇バイトをしている」っていうのも、闇バイトに誘われる人はお金に困ってる人が多いから、誘われた時は断っても結局稼げる話を忘れられなくて闇バイトに手を出しちゃった、みたいな理由だと思うよ。それが闇バイトだと知ってたかどうかはわかんないけどね。
私:ああ、なるほど。確かに、そう言われるとなんかしっくりきますね。最近の闇バイトの事件のニュースとか見てると特に。
満:だよね。矢田川くんも、お金に困ってもそんなバイトに手を出さないようにね。
私:気をつけますね。なんか、最近のニュース見てると結構常識人な人が捕まったりもしてますし。大学生とかもそうですけど、なんだったかな、普通に真面目に働いている会社員とか、それこそ警察官もいましたよね。
満:ん、ああ、どうだったかな。でも、ほんとにそうなんだよ。俺も気をつけないとな。今みたいな噂にも惑わされないようにしないと。噂ってなんかどことなく不思議な言い回しで伝わってくることが多いからね。曖昧で不安を掻き立てるというか。
私:まあ、噂ってそんなもんですよね。面白おかしく、興味を引くように話す人もいますし。
満:そうそう。むしろそういうのは、それこそ小説とか漫画の中でこそしてほしいよね。矢田川くんの小説も、期待して待ってるから。
私:ははは。頑張ります、としか言えないですが。
満:親友くんのためでもあるもんな。まあ、昴>縺、縺のことだけど、あいつはそんな怪しいバイトをするほどお金には困っていなかったから、そんなのに手を出すとは思えないよ。むしろ楽して稼げるよりも、自分が楽しめるバイトをしたい、みたいなやつだし。それだけに行方不明になってるのはとても心配なんだけどね。
私:そうなんですよ。私もどうにかして見つけたいって思ってるんですが。
満:そのために苦手なホラー分野でコンテストに参加するんでしょ。成功するかどうかはともかく、今書ける最大限のものを書くしかないと思う。
私:はは、ありがとうございます。なんか、元気づけられちゃってますね。
満:期待してるよ。またなにか訊きたいこととか、わからないことがあったらなんでも訊いてね。それこそ不動産事業をやってみようとか、儲かる健全な仕事がないかみたいな相談とかでもいいからさ。
私:ちゃっかりしてますね、満谷先輩も。
満:根回しは大事だからね。何事も計画的に、しっかり準備していかないと。
私:参考にさせていただきます。それじゃあ、今回の取材はこの辺りで。
満:ああ。矢田川くんの小説のためと、千咲の無念が晴らせる助けになってたらいいけど。
私:なってますよ。本当に、ありがとうございました。
満:うん、こちらこそ。ありがとうね。それじゃあ、また。
以上、本文。
総録音時間:96分32秒。
取材日 :2024年11月17日(日曜日)
取材時間:12:00 〜 14:00(2時間)
取材場所:県内にある某カフェ
参加者:私(取材者)、満谷先輩
取材テーマ:千咲先輩が逮捕された件について
闇バイトの噂について
注意点
※1:参加者の名前部分については、ペンネームおよび仮名で表記する。
※2:個人の特定に関する部分等は、略表記あるいは●●表記で記載する。
以下、本文
私:えー、じゃあ取材を始めますね。満谷先輩、今日はありがとうございます。
満:いやいや全然大丈夫よー。それにしても矢田川くんが小説書いてるなんてね。最初聞いた時はすげえびっくりしたよ。
私:はは、まだまだアマチュアで書籍化もできてませんが。
満:とかなんとか言ってー。そのためにコンテストに応募してるんでしょ。俺も今回に限らずいろいろ協力するからさ。なんでも言ってよ。それに、今回の取材内容を公開することで千咲の助けにもなれたらって思うからさ。逮捕されただけで実は無実だったなんてこともあるんだって、ひとりでも多くの人に知ってほしいし。だからまあ、遠慮なくなんでも訊いて。
私:ありがとうございます。そう言ってもらえると大変助かります。それでは早速なんですが、千咲先輩が今どうされているかはご存知ですか。これについては取材云々を除いて本気で気になっているところですが。
満:ああ、そうだよね。千咲のことについては良くも悪くもほとんどニュースとかにならなかったし、知らないのも無理ないと思うよ。まず、千咲とは最近は俺も会ってない。何年前だったかな、ああ、そう6年前か。6年前に千咲が突然逮捕された時は本当にびっくりした。あの時の驚きは人生でも一番で、まだ更新されてないよ。そのあと2、3年くらいは時々会ったりしてたんだけど、俺が関東の●●に就職してからは会ってないんだ。だから、現在どこでなにをしているかはわからないんだ。
私:そっか、そうなんですね。ちなみに、DMでやり取りさせていただいた時にチラッと教えていただきましたが、千咲先輩はやはり無実だったんですね。
満:うん、無実だ。千咲は闇バイトなんかやっていないし、本人もずっと闇バイトなんて申し込んだ覚えもやった覚えもないって警察に訴えたそうなんだ。まあ、ほとんど聞き入れてもらえなかったみたいなんだけどね。ほんとあいつらは頭でっかちで嫌になるよ。そう思わないか。
私:はは、そ、そうですね。
満:まあ、それはそれとして。あの時警察は、千咲が闇バイトを友達に勧誘していた音声データと、逮捕した時に千咲が運んでいたダンボールに麻薬が入っていたことを主な証拠として検察に提出し、送検したんだ。この二つから千咲は闇バイトに関わっていて、千咲自身も手を染めていたことがわかるだろう、ってね。
私:なるほど。
満:でも、千咲は結局不起訴になった。嫌疑不十分だったらしい。って、ああ、そうだ。嫌疑不十分で不起訴っていうのは、犯罪を犯したと断定するには証拠が不十分だから起訴しない、つまり訴えを起こして刑事裁判にはしないって意味ね。
私:はい。有罪になるよりはいいと思いますが、でもなんだかやり切れないですね。
満:それは千咲も言ってたよ。起訴されないイコール「あなたは無実です」ってわけではないからね。疑わしきは罰せず。やったかもしれないけど、絶対にそうだとは言えないからやめておく。つまり、白黒はっきりさせないわけだからね。まあそれでも、刑事裁判にまでされてしまうとほぼ有罪になるから、やっぱり起訴はされなくて良かったと俺は思うけどね。
私:まあ、それはそうですね。じゃあ、千咲先輩は不起訴になった後は大学に戻ったんですか。
満:いや、千咲は休学したよ。1、2年くらいかな。逮捕されたというのが友達を含めて大学に広まってしまったし、そんな中でキャンパスライフなんて送れないって言ってね。まあ、気持ちはわかるよ。逮捕された事実だけで周りは勝手に犯罪を犯した黒だって視線で見てくるだろうし、そんな中戻っていじめとかされたら最悪だし。
私:確かに、そうですね。
満:さっきも少し言ったけど、一応、休学中は時々会ってたんだ。こうしてカフェとかで話してね。やっぱり千咲、かなり精神的にやられてた。すげえ痩せたし、あんまり眠れてないみたいだったな。最後に会った時も、『人生狂わされた、最悪』って、それは酷い顔で言ってたよ。ほんと、罪をかぶせたやつは許せないな。
(ここで頼んでいた料理が運ばれてきたため、取材は一時中断。歓談略。)
私:それじゃあ食べ終わったところで、すみませんがもう少し話を聞かせてください。
満:うんうん、いいよ。なんでも訊いて。
私:満谷先輩の話を聞いていていくつか思ったことがありまして。まず、千咲先輩がもし無実だとするなら、どうして友達を誘うような音声データがあって、麻薬の入ったダンボールを運んでいたんでしょうか。
満:ああ、当然の疑問だよね。まあ、きっと誰かにはめられたんだと思う。音声データは千咲のとある知人から提出されたものらしいし。
私:とある知人、ですか。
満:本人が名前や関係性は出さないでくれって言ったらしいよ。逆恨みをされるのが怖いって思ったんだろうね。俺もその音声データは聞きたかったんだけど、裁判にはなってないから聞けなくてさ。一応千咲からは、二人の女の声が入ってたって聞いたな。
私:二人の女の声。ひとつは千咲先輩として、もうひとつがその知人ですか。
満:いや、知人の友達とかの可能性もあるから、そうとは限らないんじゃないかな。警察も、千咲が「友達」に勧誘していたって言ってたし、多分千咲の友達が人伝いに頼んで警察に提出したんじゃない。
私:なるほど。
満:まあ、そのもうひとつの女性の声については千咲自身も知らなかったらしいんだけどね。
私:え。千咲先輩が勧誘したってことになっているのに、千咲先輩が知らない人の声が入ってたってことですか。
満:不思議な話だよね。なんか声自体はかなり綺麗で、一度聞いたら必ず覚えてるってくらい印象的な声だったって言ってたな。捏造した可能性大じゃん、そんなの。誰だよそいつっていう。まあ、警察は千咲がしらばっくれてるって思ってるんだろうけどな。まったく。んで千咲曰く、その音声の中でもそいつは千咲の友達を名乗っていたらしい。
私:名乗っていた、というのは。
満:たぶん、「私は友達だけどその誘いには乗れない」とか、「むしろ友達として言うけど、そんなバイト辞めなよ」みたいな内容だったんじゃない。
私:ああ、なるほど。でも千咲先輩は、その内容に身に覚えがないんですよね。
満:そうそう。なんか千咲は、「私が友達から変なバイトに誘われたくらいなのに、私が同じようなことをするはずないじゃない!」って怒りまくってたな。
私:まあそうなりますよね。先輩が誘うんじゃなくて誘われてたって話は私も以前聞きましたね。
満:え、矢田川くんも?
私:はい。なんか、千咲先輩の友達に割のいい稼げるバイトがあるって、怪しげなアプリを見せてきてしつこく勧誘されたって。満谷先輩は聞いてません?
満:ああ、どうだったかな。そういえば、なんか聞いたかも。そうか、千咲が言ってたのはその話だったのか。
私:多分、そうじゃないかと。でも、千咲先輩の言う通りですよね。そんな誘いがあれば誰だって警戒するようになるし、自分から調べたり、ましてや応募なんて。
満:それは確かにそうだな。実はお金に苦心してたとか、腹の底では稼げる働き口を探してたけどその時は怪しくてやめた、みたいなのがなければな。
私:まあそうですね。
満:ああそれと、麻薬の入ったダンボールについてだけど、そのダンボールにはバイト先の食材とか備品とかが入ってたらしいよ。
私:食材に、備品?
満:っと、ごめん。その前に逮捕された時の状況言わないとだよね。なんか、千咲はその日バイトを終えて閉店作業をしてたらしいのよ。そしてよくあるじゃない、食材が余ったとか、備品のストックが多いから足りない店舗に回そうみたいなの。
私:ああ、ありますね。
満:まさに千咲のバイト先もそんな感じで、千咲は閉店作業を終わらせた後に余った食材とかを24時間営業してる別の忙しい店舗に持っていくことにしたらしいよ。
私:ああ、それでその道中に捕まったと。
満:そうそう。バイト自体は一応終わってるから、私服でダンボール抱えて移動してたらしくて。巡回してた警察官のひとりに職質されたっぽいね。闇バイトでの配達依頼中とか思われたんじゃない。
私:災難ですね。
満:それで、結構念入りに見られたみたい。ダンボールにはなんだったかな。ちょっと待ってね。俺も気になって千咲にその辺訊きに行ってメモッたんだけど。
(鞄からメモ帳を探す音。)
満:ああ、あったあった。えーっと、ダンボールの中身は、余った生地や卵、野菜のほかにいくつかの調味料と、クリーニング済みの包装がされた制服に、新品の文房具が数個、だったみたい。どれも千咲が自分で判断して入れたものだったって。
私:自分で判断して、つまりは誰かからお願いとかされたわけじゃないんですね。
満:うん、そうらしいよ。
私:でもそれって、闇バイトっていうよりはそのお店自体があやしい気がしますが。
満:警察も最初はその路線で捜査したみたいね。千咲のバイト先の店舗にガサ入れをしたって。でも結局見つかったのは千咲が運んでいたものだけ。クリーニングされた制服を運んだ業者とか、クリーニングをした業者、さらには本社や他の店舗まで調べたけど何も出てこなかったから、一気に千咲への嫌疑が高まったって聞いたな。
私:なるほど。それで、麻薬をこっそりバイト先の備品に紛れ込ませて運んだって思われたんですね。
満:そうそうそう。ちなみに麻薬については、クリーニングされた制服のポケットの裏地から出てきたみたいだけどね。
私:裏地から。よく見つけましたね、その警察官。
満:まあ、麻薬がある場所の定番だからね。服の裏地とか、靴の底とか。推理小説でもそういうのない?
私:ありますけど。ただそれは、麻薬があることを知っていた前提だから調べるというか。普通の職質でもそこまで調べるんですかね。
満:ま、まあ、闇バイトって最近多くなってるし、昔もそれなりにあったって聞くから、職質でもそういうところに気をつけて調べるように言われてたんじゃないかな。
私:へえ、そうなんですね。いや、私もミステリーはほとんど書かないので、そこまで詳しくはないんですけど。
満:俺も似たようなもんよ。まあ、そんな感じで千咲は捕まったけど、俺的には千咲はやってないって思うんだよね。証拠はともかく、動機的には不十分というか。
私:そうですね。んー。まあ、そうか。いやでも、どうなんだろ。
満:どうした? またなにか気になる部分でもあった?
私:えーと、まあそうなんですけど。えっと、もし千咲先輩が無実だとするなら、最初の音声データはきっと加工されたものですよね。かなり綺麗な声だったなら、それこそAIで生成した歌用の声とか。
満:うん、そうだね。
私:もしそうだとするなら、そんな準備をしているってことは、犯人は千咲先輩を前もってはめようとしていたことになります。つまりは、計画的に進められていたものなんですよね。
満:うん、ほう、なるほどなるほど。それで?
私:でもそうなると、麻薬の一件って変なんですよね。ほかの店舗に持っていくダンボールの中に何を入れるか決めたのは千咲先輩自身です。生地や卵、野菜といった食材なら移動させることも見当がつくと思うのですが、クリーニングされた制服なんかは前もって頼まれでもしない限り持っていくとは考えにくいじゃないですか。
満:うん、確かにね。
私:陥れるってことだけ考えたら、あまりにも不確実な形で逮捕されたというか。なんか引っかかるんですよね。そこで発見されたことそれ自体も、計画的なものじゃないと意味が。
満:なるほど、確かに、そうなるね。もしかしたら、麻薬の一件と音声データの件は、別物かもしれないね。
私:別物、というのは?
満:んーなんていうか、これもあくまで想像に過ぎないんだけど。たまたま誰かが闇バイト関連で千咲を貶めようとしていた矢先に、たまたま陰で動いていた別件の麻薬事件に巻き込まれた、みたいな。
私:ということは、警察が調べて出てこなかったけど、千咲先輩のバイト先では麻薬の取引が横行していたってことですか。
満:あくまでも推測よ、推測。その可能性もあるってだけで。
私:まあ、なるほど。クリーニングされた制服の裏地で取引って危険すぎる気もしますけど。
満:博打的ではあるかもね。見つかるかもしれないし。
私:そうなんですよね。というか、警察が調べて他の麻薬が出てこなかったってことは、麻薬取引をしていた人たちは相当手慣れてるか、警戒心が強いってことになりますよね。そんな人たちが、クリーニングされた制服の裏地で
満:まあ、ほんとに想像よ、想像。ちょっと複雑に考えすぎかも。
私:複雑に、ですか。
満:うん。単純に考えてみたらどうかな。
私:それだと警察と同じ結論になっちゃいますよ。千咲先輩が闇バイトしてて紛れ込ませて運んだって。
満:ああ、そっか。難しいな。
私:んー、わかんないですね。なんか、いまいちすっきりしないです。
満:まあ警察が下した判断に逆らおうとしてるからね。それは仕方ないかも。そうだ、気分転換に甘いものでも頼まない?
(追加注文、トイレ等のため、取材は一時中断。歓談略。)
私:でも確かに、警察と違った結論を導き出そうとしてるくらいだから難しいですよね。ただそれなら、なんで検察は起訴しなかったんですかね。
満:んーそこもはっきりしないんだよなあ。ああ、そうだ。そういえば千咲の不起訴が決定したのは、べつの闇バイトに関わってた人が逮捕された直後だったな。
私:え、そうなんですか。そんなタイミングでまた闇バイトの事件が。
満:しかもそいつ、千咲が言うには以前怪しいバイトを紹介してきた女友達だったらしくてさ。
私:え。それほんとですか。
満:らしいのよ。矢田川くんがさっき言ってた、千咲から聞いたって話のことだと思うけど。
私:もしそうなら、それかなり匂いますね。なんか関係がありそうな。
満:俺もそう思うんだけど、なにぶん千咲が今はどこでなにしてるかわかんないからな。これ以上調べようがないっていうか。
私:まあ、そうですね。
(追加注文したものが運ばれてきたため、取材は一時中断。歓談略。)
満:そうそう。それと矢田川くんがDMでも言ってた例の噂のことだけど。
私:ああ、はい。
満:闇バイトに誘われた人が、どんなに警戒していてもいつの間にか闇バイトをしていて、誘った人は行方知らずになる、だっけ。一応俺の方でも友達とか大学時代の先輩後輩とかにも訊いて調べてみたけど、出所っぽいのはわかんなかったよ。役に立たなくて申し訳ないけど、一応報告だけ。
私、いえ、そんな、とんでもないです。調べてくださってありがとうございます。
満:まあ闇バイトって、ほんとにいろんな人が関わる危険があるらしいからね。特に注意しないといけないのは、お金に困ってる人。これは完全に俺の予想だけど、おおかた闇バイトに引きずり込まれて、引きずり込んだ側が逃げた直後に警察に摘発されたとか、そんなところが噂の発端じゃないかな。あと噂にある「いつの間にか闇バイトをしている」っていうのも、闇バイトに誘われる人はお金に困ってる人が多いから、誘われた時は断っても結局稼げる話を忘れられなくて闇バイトに手を出しちゃった、みたいな理由だと思うよ。それが闇バイトだと知ってたかどうかはわかんないけどね。
私:ああ、なるほど。確かに、そう言われるとなんかしっくりきますね。最近の闇バイトの事件のニュースとか見てると特に。
満:だよね。矢田川くんも、お金に困ってもそんなバイトに手を出さないようにね。
私:気をつけますね。なんか、最近のニュース見てると結構常識人な人が捕まったりもしてますし。大学生とかもそうですけど、なんだったかな、普通に真面目に働いている会社員とか、それこそ警察官もいましたよね。
満:ん、ああ、どうだったかな。でも、ほんとにそうなんだよ。俺も気をつけないとな。今みたいな噂にも惑わされないようにしないと。噂ってなんかどことなく不思議な言い回しで伝わってくることが多いからね。曖昧で不安を掻き立てるというか。
私:まあ、噂ってそんなもんですよね。面白おかしく、興味を引くように話す人もいますし。
満:そうそう。むしろそういうのは、それこそ小説とか漫画の中でこそしてほしいよね。矢田川くんの小説も、期待して待ってるから。
私:ははは。頑張ります、としか言えないですが。
満:親友くんのためでもあるもんな。まあ、昴>縺、縺のことだけど、あいつはそんな怪しいバイトをするほどお金には困っていなかったから、そんなのに手を出すとは思えないよ。むしろ楽して稼げるよりも、自分が楽しめるバイトをしたい、みたいなやつだし。それだけに行方不明になってるのはとても心配なんだけどね。
私:そうなんですよ。私もどうにかして見つけたいって思ってるんですが。
満:そのために苦手なホラー分野でコンテストに参加するんでしょ。成功するかどうかはともかく、今書ける最大限のものを書くしかないと思う。
私:はは、ありがとうございます。なんか、元気づけられちゃってますね。
満:期待してるよ。またなにか訊きたいこととか、わからないことがあったらなんでも訊いてね。それこそ不動産事業をやってみようとか、儲かる健全な仕事がないかみたいな相談とかでもいいからさ。
私:ちゃっかりしてますね、満谷先輩も。
満:根回しは大事だからね。何事も計画的に、しっかり準備していかないと。
私:参考にさせていただきます。それじゃあ、今回の取材はこの辺りで。
満:ああ。矢田川くんの小説のためと、千咲の無念が晴らせる助けになってたらいいけど。
私:なってますよ。本当に、ありがとうございました。
満:うん、こちらこそ。ありがとうね。それじゃあ、また。
以上、本文。
総録音時間:96分32秒。