彼女が真実を歌う時



ミチが放った銃弾は、天井にめり込んでいる。

「殺させないっ…」

日菜はミチの拳銃を腕ごと掴み上げ、柳田にあたるのを阻止する。

抵抗したミチが力を込めて日菜を体ごと壁に押し付けた。

「強くなったなんて、っ、勘違いしないでよ日菜。あんたはあの時みたいに部屋の中で何もせず見てればいいよ。それが出来ないなら、殺すだけ」

ミチの腕が日菜の首元を押し付ける。
日菜は苦しさのあまり、顔を歪めた。

ミチの拳銃を持っている手が上がり、日菜の方に向いていく。日菜はその手を止めるように掴むと、ミチとの力が反発しあってお互いの腕が震えていた。


「…私は、もうあの時みたいにはならない」

幾分か日菜の力がまさった瞬間、日菜はミチの腕を捻り上げてそのまま体をねじりミチの拘束から抜け出すとそのままミチの体を壁に押し付けた。


「これ以上、ミチに復讐はさせないから」

「うるさい!」


ミチは全ての力を込めて日菜の体を押しのける。
日菜の体が地面に転がった。

その瞬間、地面に何かが転がる。

日菜のポケットから溢れたピンク色のギターのストラップであった。
ピタゴラスの部屋でミチからもらったものである。
ミチはそれを視界にいれたあと、子どものように泣き出しそうな顔をした。

だが、復讐の手はとまらずストラップではなく、転がった拳銃を再び手に取り、柳田たちの方へと向けた。

躊躇いもなく引き金を引こうとするミチに、日菜は体当たりをするようにミチの体ごと地面に倒れ込ませた。

銃の音がまた、そこに響く。

ミチの顔に血の滴が落ちた。日菜の肩を掠った銃の弾。言葉にならない感情のせいか不思議と痛さは感じなかった。
日菜の下で顔を歪ませるミチ。


「どうしてそこまで、こいつら救おうとすんの」

「それが私の仕事だから」

「なんで、私と、友達でいたいなら、一緒に闇に落ちてよ。あのピタゴラスの部屋みたいにさ、2人で連弾して、楽しくさ、私にだって、夢、あったのに」

「…やっぱり、歌手になりたかったの、ミチ」


ミチは唇を噛み締めた。
日菜は体を起き上がらせ、ミチの腕を引き上げた。そして手錠をかける。



「……18時3分、銃刀法違反及び殺人未遂の容疑で現行犯逮捕します」




床に転がったストラップは、もう拾わなかった。