しばらくヒルイとはメッセージでのやりとりが続いていた。

だが、真実を掴んだヒルイは田所ミチと接触した。結果は何も終わらせられなかった。
真中が次にヒルイと会った時彼女は血だらけであった。

病院には行かないとヒルイは頑なであった。自分が死ぬかもしれない時にまで真実を求めて誰かを救おうとしている彼女に真中は「どうしてそこまで」という感情を抱く。いつか本当に消えていくのではないかと怖くなった。


「ヒルイっ!」


真中は血だらけのヒルイを抱えて、逃げ込むように『ピタゴラスの部屋』に入った。
かき集めたタオルをヒルイの傷口にあてる。

苦しそうにヒルイの顔が歪んだ。


「田所ミチにやられたの!?」


ヒルイは真中の問いに数回頷いた。


「ほっ、細田、朱莉を殺して、次はあと2人、いや、3人殺そうとしてる」

「2人は柳田と青谷だよね、あと1人は?」

「…かつての親友」

「親友?だれ?」

「…っ、若月日菜さんって人、今、刑事になってる」

「なんで親友まで殺そうとしてんのよ、あいつ頭狂ってんじゃないの」


ヒルイは力なく笑った。そして小さく口を開く。


「……ほんと、音楽ってすごいよね、人を繋いでいくんだから」


「ヒルイ、何言ってんの、やめてよ死なないでお願い」


血が滲んでいくタオル。真中は自分の上着を脱ぎ、上からまた押し当てる。泣き叫ぶように「ヒルイ」と何度も名を呼んだ。
まだ、彼女の歌は終わってはならない。

ヒルイは真中の手を上から弱い力で握った。



「…大丈夫、まだ救える。この時のために真中ちゃんに協力してもらったんだから」


「っ、私、何をすればいい」

「部屋に血のついたナイフを置いてきた。これで警察が動く。私はやっぱり音楽しか取り柄がないから、それで真実を伝えるしかない」


「音楽で…?」


「…田所ミチの復讐に協力して、真中ちゃん。

そして、私の真実の歌にすべてをかけて」