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壊れてしまうほどに荒々しく開いた扉。ドアベルもそれに合わせてそこに響き渡った。
女はそれでも笑み浮かべてタバコに火をつけていた。

「…朝倉が捕まって、いよいよ警察が動き始めたよ」

「へえ。じゃあ和田橋さんも捕まっちゃうの。寂しいな」

煙を吐いてそう言った女。
和田橋は怒りを抑え込むように笑顔の仮面を貼り付けてカウンターテーブルに座っている女の横の椅子に座り、ウイスキーを頼んだ。

「僕は捕まらないよ、ただ君も危ないんじゃないの、ミチちゃん」

女はその言葉に慌てる様子もなく、灰皿にタバコをバウンドさせた。灰色の粉がはらりと落ちていく。

「どうかなあ、警察ってぽんこつだから私が残した曲にも気づいてないかも」

「細田朱莉のことか?」

「うん。ただ復讐するだけじゃ面白くないからさ。細田朱莉に殺す前に曲をプレゼントしたの。まあ、バカだから気づかないよね。普通に殺させてくれた」

「君はハルカゼスターを利用して勝手に復讐をしたんだよ、この状況どうしてくれるの」

「やだなあ和田橋さん。和田橋さんだって私がいないととっくに捕まってたでしょ。賭博の場所も、薬物のことも、ぜーんぶ私が上手いことまわしてあげてたじゃん」

「最初から復讐が目的と知ってたら、君とは関わらなかったよ」

和田橋は焦燥を逃すように、出てきたウイスキーをぐびりと飲んだ。
女は笑みを浮かべて、頬に手をつきそんな和田橋の方を見る。


「花田瑠衣歌はね、カリンの件で色んなことに気づいたんだって」

和田橋は目を見開いて女の方を見た。
まさか、と。

「花田瑠衣歌を殺したの」

「うーん、死んでたらいいんだけど、どうだろう。私もあの時焦ってたから」


和田橋の脳裏に、血のついたナイフがよぎった。そんな予感はしていた。だが和田橋にとって、ヒルイはもはや死んでいてくれていた方が気が楽であった。
世間なんてどこまでも騙せる。ヒルイの件だって時間が経てば忘れ去ってしまうだろうと。

だが、ヒルイ自身がまだ自分たちの闇を明かしてやろうともがいているのだとしたら。


「ミチちゃん、たぶんヒルイは生きてる。君と同じように音楽に真実を隠してさ、変な正義感で僕たちを裁こうとしてるんだ」


やっと、女の笑みが消えた。



「彼女が真実を歌う時、私たちも終わりってことね」


溶け始めた氷が、カランっと音を立てた。
「でも」と女は灰皿にタバコを押し付けた。



「まだ、何も終わってない」



3章【顔の歌】