彼女が真実を歌う時




「持ってきたぞ」

日菜は刑事課の部屋に戻ると、大宮は早くも待ち構えており手に持っているそれを日菜に見せた。

「早かったですね」

「轢き逃げの犯人が捕まってないからな。もしかしたらハルカゼスターの内部の人間が犯人かもしれない」

「…はい」

日菜は自分のパソコンを机の上に置いて電源をつけると右横のUSBポートにそれを差し込んだ。
『短めの音楽』大宮はそう言った。


「大宮さんはこれをきいたんですか?」


「ああ、でもよく分からなかった。
当時の担当刑事に聞いてみたが、おそらくカリンの新曲のデモ音源みたいなものだろうって結論が出ていたらしい」

「デモ音源、ですか」

大宮は音楽のことについては日菜以上に分からない。
だが、大宮は少しの違和感をどう口に出したらいいのか分からない顔で頷いた。
日菜は『曲001』と書かれたフォルダをクリックした。

「30秒ほど流れてるんだが、ラップが始まんのかと思ったらどうやら違うみたいだし、電子音が不思議なんだよなあ、少し怖いというか」

大宮がそう言った。日菜は緊張感を落ち着けるように息を吐いて再生ボタンを押す。

少しの間があって流れてきたのは大宮の言う通り電子音のようなものである。

そして人の声のようなものが大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。言葉としてなりたっておらず、耳には「あ」や「う」のようにきこえてきた。
同時にドラムの音などとは違うコンピューターで打ち込んだようなリズム音が鳴っている。


「カリンは、元々恋愛ソングやかわいらしい曲調が人気のアーティストでしたよね」


「そうだ。これがデモ音源だと言われてもな」


「この人の声のようなものは誰が歌っているものなのでしょうか」


「それも調べたんだが、機械で人の声のようなものが出せるらしい。生身の人間の声じゃないってことだ」


「なるほど…」


30秒ほどで音楽が終わり、日菜は考え込む。
花田瑠衣歌が残したとなると、今までの音楽とはまるで違ってくるため違和感があった。
音楽のジャンルなども分からず、パンの歌の時のように歌詞があるわけでもない。

日菜はふと顔をあげた。

以前、浦井が言っていたことを思い出したからだ。
人の耳に聞こえない音の範囲で暗号を残すことができる、と。


「大宮さん、この曲も何か隠されてることがあるかもしれません」

「何か心当たりがあるのか」


大宮の問いに日菜は頷いた。