ーーーーーー
日菜はある事件について調べていた。
カリンのマネジャーであった細田朱莉についての資料である。
轢き逃げがあった当初、彼女が持っていたものを再度確認するために日菜は資料が管理されている場所へと向かった。
轢き逃げが単なる事故ではなく、意図的なもので起きたとしたら、と日菜は考えていた。
ただどうしても細田朱莉の面影は日菜自身の過去の情景に繋がってくる。
沸き起こる感情を振り払って、細田朱莉の資料を広げた。ここまできたら、逃げるわけにはいかない。
細田朱莉が事件当時持っていたものは黒い鞄、
その中に入っていたのは、財布や携帯、カリンの仕事の資料、それから
「USB…」
黒いそれは鞄の中のチャックのついた小さいポケットに入っていたと記載がある。
この中身についての詳細が書かれていない。
日菜の中でそれはひどく引っかかった。
一度管理室を出て、日菜は大宮に電話をかける。
「お疲れ様です、大宮さん」
「ああ」
電話口の大宮の声はひどく暗い。和田橋の取り調べをおこなったと聞いているが、やはり簡単には吐かなかったのだろうと大宮の声色でなんとなく察する。
「細田朱莉の轢き逃げの件なんですが、細田朱莉の鞄の中に入っていたUSBを確認したいです」
「なんでだ」
刑事の勘ですなんて言おうものなら重ためのゲンコツが落ちてきそうなので口をつぐむ。
「大宮さん、細田朱莉について少し調べたんですよね、このUSBの中に入っていたもの何か知りませんか」
「中に入っていたもの…ああ、確か短めの音楽が入って…」
大宮が言葉を止めた。
中に入っていたのが音楽であるという真実に今気づいたからであろうと日菜は察する。
なんてことない、音楽。大宮も日菜も花田瑠衣歌が音楽を残さなければその程度だった。細田朱莉が音楽を持って死んだことも何も思わなかっただろう。
だが、今「なんてことない音楽」が重要な真実の手がかりになっている。
このUSBに入っていた音楽も、花田瑠衣歌が残した真実だとすれば。
「俺たち思考が飛躍しすぎてるか」
「どうでしょう、でも調べてみる価値はありそうです」
日菜は大宮との電話を切り、再度管理室の中へと入り広げた資料をまとめていく。
ふと、細田朱莉の写真が目に入った。
睨みつけるようにその写真を見つめる。
日菜の友人のクラスメイト。大宮に説明したのは正しい。ほとんど関わりがなかったのも事実だ。
ーーーだが、
日菜は細田朱莉を恨んでいた。
10代、小さな空間に押し込められて協調性などと大人から押し付けられた価値観で複雑に絡み合ったあの頃。
日菜もその渦中にいた1人であった。
「何も変わってないね、私たち」
日菜はそんな独り言を呟いた。



